常盤文克の「人が育つ」組織をつくる 第1回 日本企業ならではの人づくり
元・花王会長の常盤文克氏が、これからの日本の企業経営と、その基盤となる人材育成のあり方について、東洋思想に根ざした独自の視点で提言します。企業にとって大切なのは「人育て」。その理由、そして企業活動や仕事のあり方について考えます。
「楕円思考」で物事を捉える
人は誰しも、自分なりの価値観や思考様式を持っており、知らず知らずのうちに自分の尺度で物事を捉えてしまう傾向があります。その結果、外から入ってくるものに対して、自分の尺度に合わなければ排除してしまうことになります。これでは、新しい世界は見えてきません。
今立っている自分の“杭”とは対極の地点にもう一本別の杭を打ち、そこから自分を客観的に捉えてみる必要があります。これは人材育成についても言えます。いつも考えている・やっている“人育て”という杭の対極にもう1本杭を打って、そこから新しい人育ての在り方を論じてみることが重要だと思います。
私は、物事を考える折の原点として、中国の古代自然哲学である「易」(陰陽思想)に強い関心を寄せてきました。易は、中国古代の聖人、賢人たちが、自然や人間、社会などを広く深く観察する中で、物事の本質とは何か、また人間の在り方、生き方はどうあるべきか、を追求した哲理です。
その根幹のひとつは、例えば男と女、昼と夜、表と裏というように、物事は全て陰と陽の“対”になって存在している、という考え方です。いずれか一方だけでは成立せず、対になる2つが対立したり矛盾したりしながらも1つになっている─これを“対立的統一”、あるいは“矛盾の同一性”といいます。対になるもの同士が、相互に作用することによって、初めて両者は存在する、ということです。男女の関係で考えるとわかりやすいと思います。このことから、易は自分の対極にあるものをしっかりと見ること、そしてその対極に立って自分自身を見ることの大切さを教えてくれます。
私たちは普段、円の中心に自分を置き、そこから周囲を見よう・考えようとします。これは「円思考」です。そうではなく、自分と自分の対極にあるものとを包含するようなものの考え方が大切なのです。そのような考え方を私は、「楕円思考」と呼んでいます。