CASE 3 日本通運 現地での修羅場体験が成長を促す 1年間にわたる海外業務を経験させ “海外で稼げる”人材を育てる
入社4年目以降の若手社員を対象とした「海外業務研修員制度」を1964 年から実施している日本通運。
1年間、現地でさまざまな業務を経験することを通じて視野を広げ、海外で“ 稼げる”人材の育成をめざしている。
●背景 国際関連事業比率40%をめざす
1958 年、ニューヨークに駐在員事務所を開設して以来、国際物流の拡大と共に世界各地にネットワークを広げてきた日本通運。現在は世界41カ国・240 都市・514 拠点のグローバルネットワークを構築しており、約2万人の海外社員が働いている(2015 年3月末時点)。2013 年4月から取り組む「日通グループ経営計画2015」では、2016年3月期の国際関連事業売上高比率を40%とする目標を掲げており、将来的には50%にまで高めることをめざしている。
同社のグローバル人材育成方針について、グループの人材育成戦略を担う「NITTSUグループユニバーシティ」の近藤廣司専任部長は、次のように語った。
「国際関連事業の比率を高めるには、海外で稼ぐことのできる人材、海外業務をマネジメントできる人材を増やすことが不可欠です。
というのも、我々の事業は基本的に、モノを動かす商売です。メーカーさんですと、モノづくりの技術をお持ちのため、そこにプラスアルファで語学などがあればビジネスも進みやすいでしょう。しかし、我々の場合は現地の顧客や同業者など、さまざまな人々とタフな交渉をしながらビジネスを生み出していかなければなりません。
そうした仕事ができる人材を育成するために、若いうちから海外での経験を積ませると共に、国内での教育でもリベラルアーツ(教養)の習得を強化するなど、グローバルな案件に対応できるような意識や知見の醸成に取り組んでいます」
●目的 視野と能力を広げる
半世紀以上前から海外展開を進めてきた同社だが、その原動力となってきた人材育成の仕組みが、1964 年に開始された「海外業務研修員制度」だ。入社4 年目以上の若手社員を対象に1年間(一部地域では2 年間)、海外現地法人に派遣し、実務を通じた研修を行う。当初は毎年数人程度の派遣だったが、現在は毎年約60 名を世界各地に派遣。制度開始からでは、延べ約1750 名もの社員がこの制度での海外派遣を経験したという。
同制度の目的について、同じくNITTSUグループユニバーシティの横澤幸紀課長は語る。
「研修員は将来、海外現地法人に勤務することを前提としていますので、1年間の研修の中で海外業務に精通し、視野を広げることを目的としています。研修員なのでマネジメントはしませんが、現地の先輩マネジャーの仕事振りを見習い、次に自らマネジャーとして赴任する際に活かしてもらいたいと考えています。また、現地に溶け込み、現地のスタッフと親しくなり、その国の知見を持ち帰って国内での営業活動に活かしてもらうことも、副次的な効果として期待しています」
研修の基本は海外拠点の業務を通じたOJTのため、プログラムは全て受け入れ先が作成する。研修員の派遣は海外拠点にとっては毎年の恒例行事となっており、本社側は各海外現地法人の状況を見ながら、派遣先を割り振る。
「業容が拡大傾向にある海外拠点では、研修員を、将来のマネジャー・幹部社員候補として見ていますので、積極的に受け入れてくれます。
また、制度の名の通り、研修員が着任した時からすぐに、『座学』ではなく実際の『業務』に取り組むところが、研修員の成長につながっていると捉えています」(近藤氏)
社員を海外に派遣する際は、いかにスムーズに現地に溶け込ませて、業務に専念できる環境を提供できるかが大切になる。その点、同社の場合は50年以上この形式で実施しており、現地の日本人マネジャーのほとんどが過去に研修員を経験しているため、自らの経験を踏まえて研修員を指導することができる。加えて長年にわたり蓄積された受け入れのノウハウ、育成の連鎖がある。そのため、派遣中のことは現地にほとんど任せても、特に問題はないそうだ。
●派遣元の理解 一回り成長して職場に貢献
海外業務研修員制度は手挙げ式で、希望者が自ら応募する。入社4 年目以降としているのは、業務での一定の経験を積ませるためだ。その他の条件は、TOEICのスコアが600点以上であること。地域ブロック・事業部での面接、本社での日本語・英語による面接を受け、その総合評価で選考される。応募にあたって上司の許可は不要であり、受講希望者本人が直接本社に応募する形式になっている。
しかし、職場の貴重な戦力を1年以上も海外に送り出すとなると、職場の理解が不可欠だ。どのように理解を得ているのだろうか。
「私が30 年近く前に入社した頃は、海外業務研修員制度に応募したいと手を挙げても、上司から『お前がいなくなったら今の仕事はどうするんだ』と言われ、なかなか行かせてもらえませんでした。しかし現在では、人事対応も含めて制度が定着しており、職場でも積極的に参加させる土壌ができています」(近藤氏)