内省型リーダーシップ 最終回 特別対談 しなやかに生きるための内省のススメ
「自分を見つめること」=「内省」がリーダーシップを育てる上で効果的であるという研究結果をもとに、新しい“内省型リーダー”のあり方を、これまで全6回にわたる連載で解説してきた。連載終了にあたって、著者2名による対談をお送りする。連載を踏まえて見えてきたのは、内省がリーダーにとってだけではなく、全ての人にとって持つ意義だ。なぜ今内省なのか。内省は私たちにどのような変化をもたらすのだろうか。
今、改めて内省とは何か
―連載を改めて振り返って、内省とはどのようなものなのでしょうか。
八木
連載第1回で、内省とは「自分が自分を認識する」ことだとお伝えしました。そこで今改めて思うのは、内省とは、自分の立ち位置を自分で選ぶためのものではないかということです。ビジネスでは、利益や顧客満足など、何らかの目標を日々追究していきます。その中では、自分自身も周囲の状況も刻々と変わります。そこで1つのことに固執し続けると、自分のバランスが崩れてしまうことがあります。そうした時に再度自分のスタンスを取り戻し、狙いを定め直すために内省が必要だと思うのですが、我々はその方法をあまり学習してこなかったのではないでしょうか。
永井
確かに、そもそも目標自体周囲の環境や自分の変化に応じて可変的なものですよね。ビジネスにおいては、目標は一旦設定したら貫徹すべきものとされています。ビジネススクールで習うのはいかに目標を達成するかということだけで、変化する環境の中で、可変的な目標に対して自分がどうあるかということについては習いません。
八木
周囲の変化に振り回されて安定を欠いた状態になってしまうと、我々は、理不尽だとか、ままならないという気持ちになることが多々あります。そういった時に、自分をフラットな状態に戻すのが内省です。たとえば禅には「動中の工夫」という言葉がありますが、内省はこれに近い。「静中の工夫」は座禅ですが、「動中の工夫」は畑仕事や掃除など、日常生活の中での修行のことです。
永井
「内省」は確かに仏教的なところがありますね。リーダーシップに関する研究領域でも、東洋的な思想に対する関心が高まっている。内省という言い方はしなくとも、自らを省みることの重要性が今ビジネスで求められていることの表れだといえるかもしれません。
変化をしなやかに受け容れるための内省
―現代の激しい変化に対応するために内省するということでしょうか。
八木
確かに今は変化のスピードが速いかもしれませんが、変化しない時代はありえません。ただその変化に直接的に反応して自分がぐらぐら揺れてしまうのが、連載第2回でお話した「反応型リーダーシップ」。反対に、変化が起きた時に揺らいだとしても、自分でありたい姿を選択できるのが「内省型リーダーシップ」。状況変化に感情的に巻き込まれるのでなく、一歩引いて立ち位置を認識し、自分で選択できることです。