人材教育最前線 プロフェッショナル編 自分と向き合うことの第一歩は 何を感じているかを問うこと
2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して誕生したアステラス製薬。同社では、中長期ビジョンで「他社を凌駕するスピード」「環境変化に対応する変革力」「競争力を生み出す専門力」「更なる力を生み出すネットワーク力」を期待する人材像として掲げている。それらの力を有する人材を育成する人材育成体系が「アステラスビジネススクール」だ。その企画から具体的研修の実施運営までを担っているのがアステラス総合教育研究所である。中でも、新入社員から中堅社員向けの研修の企画・運営を取りまとめる朝妻綾子氏に、教育に対する想いをうかがった。
大切なのは“めざす”より内面に向き合うこと
アステラスビジネススクールには、大きく分けて「教養課程」と「専門課程」の2つの領域がある。第1段階となる教養課程が、入社して5年間、徹底して育成支援を行うAstellas Growth Program(AGP)。専門課程では「成果が期待できる人材へ傾注した投資」として、全社員に向けたAstellas ProfessionalProgram(APP)が用意されている。これはやる気があり自身の成長のために努力する人を対象にしたものだ。こうした2つの領域の教育プログラムの企画・運営の牽引役となっているのが、アステラス総合教育研究所 企画部 課長 コンサルタントの朝妻綾子氏である。とりわけAGPには、「キャリア形成には何よりも自分自身の内面を知ることが大切である」という朝妻氏の人材育成に対する想いが反映されている。AGPについて朝妻氏は次のように話す。「AGPでは、『アステラスで働くことに自信と誇りを持っている人』、『自ら考え、決めて、周りを巻き込み行動できる人』、『自己責任でキャリア形成し、成長を実感できる人』の3つを兼ね備えた人材の育成をめざしています」自律的キャリア形成を行ううえで不可欠となる“自分自身を知る”ための工夫が、AGPの中には豊富に取り入れられている。それこそが、朝妻氏の人材育成への“想い”の部分だ。「自分らしさ、自分の強み、自分は何を大事と考えているか――。そういったものを確立できれば、仕事の現場で対峙する諸問題に前向きに取り組めるはずです。経験がないからこそ、若い人は他人と自分を比較しがち。『こうなりたい』とめざすことも決して悪くはありません。しかし、めざす目標を決めた瞬間に、めざすものしか見なくなる。それよりももっと柔軟に捉えて自分らしさや自分の強み、自分が大事にしているものを理解したうえで、可能性を信じ仕事に向き合えば、チャンスの機会はずっと広がるはずです」めざしているものに向かっていくと、それ以外のことに興味が薄れてしまいがちだ。しかし、いろいろなことに挑戦してみるという経験は、自分が知らなかった可能性を見出すきっかけになる。また、それによってキャリアの選択肢が広がることになる。その意味でも、キャリア形成にはまず、“自分を知ること”が大切なのだという。なぜ、こうした想いが醸成されたのか――。理由は、朝妻氏のキャリアと時代的背景にあった。「私自身、入社して数年は、自分のことがわかっていなかった、いや、知ろうともしていなかったのかもしれません。自分を知ることは、痛みも伴いますから避けていたのでしょう。でも自分を知らなければ自分と相対する人たちを理解することはできません。キャリア形成には、周りの人たちから教えてもらうことが必要なのです」
ロールモデル不在をバネに新天地に挑戦
朝妻氏が人材開発担当になったのは1994年。入社14年目のことだった。