変化とともにあるための易経 第5回 知力溢れる逞しい組織をめざす 「易」の人づくり
易経の言葉から学ぶ時代を超えた人づくりの本質
今回はまず、易経を人材教育(人づくり、人育て)に活かすための考え方を紹介する。人づくりというテーマで思いを巡らすと、易経の繋辞伝にある「君子は器を身に蔵し時を待ちて動く」という言葉が浮かぶ。「器」は優れた才能を意味している。「時」は本連載の第3回で触れた「時中」のこと。大事を成し遂げるためには、最適な時である時中を見定めることが重要だといっているのだ。君子は常に己の才能に十分に磨きをかけている、だからこそ、いざという時に動けるというわけである。その意味を掘り下げると、「優れた才能のある人でも、大事を為すには最適なタイミングを待たなければならない。そして、その時を待つ間、自分自身の才能に磨きをかけることが重要だ」と読むことができる。
地に潜り「時中」を待つ龍と成長途上の社員を重ねる
易経にたびたび現れる「君子」は、優れた徳と才能を持つ理想の人物像である。その君子が、いかに成長期を過ごし、成熟して大事を成し遂げるのか――成長モデルとでもいうべき文言が、第一卦「乾為天」(図1の赤丸をつけた卦)の爻辞にある。その前に、まず「卦辞」について説明する。易経には64の「卦」があり、それぞれの卦には、吉凶を表すことば「卦辞」が付されている。占いの結果を読む時は、まずこれで全体を判断する。この「卦」は、「---」または「--」の「爻」と呼ばれるものが6つ重なってできている。そして、1つひとつの爻にも、占いのことばが付されている。それを「爻辞」という。6つの爻の爻辞は互いに関連性があり、万物の変化を題材に1つのストーリーになっている。占筮(筮竹で卦を立てる)の際は、定められた卦を説明する卦辞に加え、それぞれの爻辞を読み解いて行動の指針とするのである。そこで、「乾為天」の爻辞である。ここには、地中に姿を隠していた龍が成長し、飛躍を遂げる姿が描かれている。飛躍を遂げて天空を駆ける龍は、優れた才能を持つ君子の喩えである。つまり、君子が世に出る前から、世に出て絶頂期を迎えるまでのステップを龍の成長になぞらえているのである。六爻のうち、初爻(最下の爻、易では物事の変化は下から上の爻へと進んでいく)に書かれているのは地に潜む龍(潜龍)の姿だ。未熟な龍は飛躍を遂げるにはまだ若く、地中でじっと過ごしている。これが教えるのは、成長途上にあっては、ひたすら力を蓄えよ、ということである。二爻では龍が地上に現れる。だが、まだ飛躍の時は訪れていない。ここでは「大人」(優れた人物)の指導を仰げと教えている。