人材教育最前線 プロフェッショナル編 問題解決につながらない教育には意味がない
「会社に対する忠誠とは何か。一言で言えばイエスマンではないこと。問題意識を持ち、こうするべきではないか、と提言できる人こそ本当の忠誠心を持つ」。こう語るのは富双合成 管理本部 管理部 部長の石橋徳久氏だ。年功序列の中で「周囲から認められていない人が上に立つ」ことに抵抗感を持っていた前職時代。会社の成長のために成すべきことを問い続けた石橋氏が今、同社でめざすのは、誰もが納得できる制度の確立と、見過ごされてきた職場の課題を、社員自身が課題として捉えられる問題発見力の向上である。
「組織の動かし方」を知る
石橋徳久氏が大学卒業後、最初に入社したのはゴルフやプロ野球など、スポーツ関連のイベントを管理する会社だった。中でも長く担当したのが西武球場での仕事。球場では1塁側、3塁側に責任者としてそれぞれ社員を置き、その下に改札、外野席、内野席、指定席、外周通路などアルバイトをチームで配置する。ボールの回収からチケット切り、会場整理、警備など1試合で働くアルバイトは200 ~ 400人にもなる。石橋氏は25歳でそうした全人員を統括するトップのポジションに就いていた。
「アルバイトだけで総勢2000人くらい管理していました。人の募集から試合当日の会場の管理、クレーム対応など仕事はさまざま。その中で一番学んだのは組織の動かし方でした」
統括する立場になって最初の頃のこと。部下である責任者を飛び越えて、アルバイトのリーダーに直接指示を出してしまったために責任者に情報が流れず、現場を混乱させてしまった経験がある。
「自分が直接指示を出すべきは責任者である社員。そして、彼らがアルバイトのチームリーダーに指示し、リーダーがメンバーに指示する。指示命令には順序があり、伝えるべき人を間違えてはいけない。これはどの会社、組織でも同じです。社長が直接、社員に指示・命令を出していたら組織は崩れてしまいます。
さらに、社長や専務など絶対権を持つ人が、一般社員を直接叱責したら、その社員は『トップに言われてしまったら、もうこの会社ではやっていけない』という気持ちになってしまう。部長、課長を通して伝えるのが組織なのです」
この時学んだ指示・命令系統にのっとった情報伝達の重要性は今でも常に意識し、それに基づいて行動しているという。
会社の思想を反映させる仕事
イベント管理会社に5年間勤めた後、石橋氏は従業員800 名ほどの建築資材専門商社に転職。これが人事の道を歩むきっかけとなる。
当時はバブル経済のピークで、大量採用を背景に企業側の採用担当の人手も不足し、人事系の求人が溢れていた。石橋氏は前職でのアルバイトの募集・統率の経験を活かし、採用担当として入社した。最初は人事について何ひとつわからないような状態だったという。だがそこから、同社の等級制度、賃金制度、目標管理制度、人事考課制度を整備し、最後は人事課長を務めた。そこには、人並み外れた努力があった。
「制度設計に取り組んだことで、人事は会社や経営者の思想、考え方を反映させる仕事であると実感しました。それは賃金制度や評価制度だけでなく採用の仕事も同じ。『面接』という場で、会社の考え方や風土、文化に合う・合わないを見極めているのです。
採用で最も気にかけるのは、『新しい細胞(応募者)を移植した時に、拒絶反応を起こさないか』ということ。本人が起こさなくても、周囲が起こす可能性もあります。しかし、周りが起こすかどうかは、会社側の人間にしかわからない。だから何度も面接を重ねるのでしょう。30歳を過ぎた頃、そう考えるようになり、本格的に人事の仕事に興味を持ち始めました」