CASE.1 GE リーダーシップのOS(基本ソフト)を身につける 修羅場体験で鍛える「適応力」と「人間力」
「世界最強企業」といわれるGE(ゼネラル・エレクトリック)社には、トップ15%の人材しか受けられないリーダーシップ研修がある。
日本人として唯一、同社のリーダーシップ研修の責任者を務めた田口力氏に、「成長し続けるグローバル企業」が重視しているリーダー教育について聞いた。
● 精鋭教育の基本 行動規範に沿って成長させる
ニューヨークにあるGEのリーダー養成機関、ジョン・F・ウェルチ・リーダーシップ開発センター(通称クロトンビル)は、全世界の企業から注目を集める存在である。
従来は幹部育成の色合いが強い組織だったが、CEOに就任したジャック・ウェルチ氏(前GE会長)が1982年に大改革を行い、リーダー育成に特化したプログラムを提供するようになった。この時、ウェルチ氏が経営戦略部門を撤廃したのは有名な話だ。
彼が残した「戦略は、現場のビジネスリーダー全員が自ら考えるべき」という強烈なメッセージはそのまま継承され、同社には今も経営戦略に特化した部門は存在しない。そのベースにあるのは、「全てのビジネスパーソンは、2ファンクション(財務と人事)のトップと共に自ら戦略をつくる」という考え方だ。
そんな環境下では、ひとりの極めて優秀なリーダーに周囲がついていく「カリスマ型リーダーシップ」ではなく、社内のあらゆる部門、セクションにリーダーがいて、周囲を巻き込んで成長していく企業文化が促進されていく。
GEのカルチャーを理解したうえで入ってくる人材はそもそも優秀なのだが、クロトンビルのリーダーシップ研修を受けられるのは、中でも選りすぐりの人々である。具体的には、各バンド(役割等級)のうち、トップ15%くらいまでの評価を得ていることが条件だ。
日本の大企業では、全ての社員に階層別教育を施すが、GEでは選ばれた精鋭のみ。そのほうが参加者のモチベーションが高くなり、費用対効果もよいことが経験上わかっているからだ。
ここで行われるリーダーシップ教育は言葉にすればごく単純で、拍子抜けするほど基本的なスキルと心構えが大半である。だが、どれも単純であるがゆえに奥が深く、なかなか実践できないことでもある。
スキルについても、リーダーが持つべき規範「GEバリュー」(図1:現在はGE Beliefs)と関連させて展開していく。
この考え方は人事評価でも一貫している。リーダーをはじめ、社員の評価は年間の業績達成度の他に、「GE バリュー」をいかに発揮できたかによって決まる(図2)。
どんなに業績を上げた社員でも、「GE バリュー」を発揮できなかった人材は「要改善」の対象となる。さらに、行動規範に沿って高い業績を上げた社員も、周囲の期待値を上回って成長し続けない限り、評価が下がっていく。現状維持だけでは不十分というわけだ。ここが同社の厳しさであり、やりがいを生む源泉でもある。