巻頭インタビュー 私の人材教育論 育てたいのは、20年先を見て 自分と組織を変えられる人
2020年までに売上高を現在の約3000億円から5000億円に拡大し、創薬型製薬企業として成長するというビジョンを打ち出した塩野義製薬。
その実現のために、どのような人材を求めているのか。
そして、その人材をどのように育成しているのか。
同社の手代木功社長に聞いた。
15年先を見てしなやかに対応
──中期経営計画「SGS2020」で、「創薬型製薬企業をめざす」と宣言されました。このビジョンを描かれた理由を教えてください。
手代木
その背景には、先進国、新興国で異なるニーズがあります。
今、先進国では、高齢化の進展に伴い、限られた社会保障でどう医療を支えていくかが課題になっています。一方、新興国では、安価な薬をどれだけのボリュームで提供していけるかが課題です。
このようにニーズが地域で全く異なれば、1つの製薬企業で対応することは難しい。そこで当社は、自社の得意分野とスケールを踏まえ、新しい薬を開発していくことで会社の付加価値を上げていく道を選んだのです。
──目標実現に向けた戦略の柱の1つに、人材育成を挙げていますが、求める人材像とは。
手代木
私が社長になってからの7年間だけでも、リーマンショックやヨーロッパの経済危機、地政学的なリスクに端を発した世界の揺らぎなど、大きな変化が相次いで起こっています。こうした激しい環境変化の中で求められるのは、社会にアンテナを張り、自分なりに状況を受け止めたうえで、守るべきところは守りつつ、柔軟に対応すべきところは柔軟に対応するケイパビリティ※です。
社会の流れの中で、会社や患者様の求めるものは変わっていくため、そこに対応できる柔らかさ、しなやかさが必要になるのです。
例えば、各国の財政状況が変われば保険財政が変わり、保険財政が変われば、医療に対してどれだけ償還できるかも変わってきます。一方、医薬品は開発に15年といった長い時間がかかります。したがって、将来起こりうる変化を読んだうえで、研究・開発を行っていかなければ、薬ができた時にはすでに時代遅れということになってしまいかねません。
※ケイパビリティ:能力や知識・知恵・対応力などを複合的に表す言葉。「活用可能性」とも訳される。
しなやかさのカギは“関心”
──社会の変化と関連づけて、自社の研究・開発を見続けていかないといけないということですね。
手代木
そうです。強みの分野をこつこつ鍛え積み上げてきても、10年、20年経った時に、それが必要とされているかどうかはわかりません。ですから、常に社会の変化を見ながら、自社の研究・開発の方向性を見直していく柔軟性、しなやかさが求められます。
そのためには、社員一人ひとりが常にアンテナを張って勉強し続けることが重要です。従業員には2020年、2030年のありたい姿に対して、今自分がしている仕事が将来に対して価値ある仕事であるかを問い、仕事を変容することに対しても柔軟に考えてほしいと言っています。会社の方向に自分のストレングスを合わせていく。そういった行動変容の中で、自分なりに試行錯誤をして取り組んでほしいのです。
私は3カ月に一度、全社に向けてメッセージを発信していますが、その中で、「去年と同じ質と量の仕事をしていたら評価を下げざるを得ない」と伝えています。環境が変わっているのに前と同じことをやっていたら、それは“現状維持”ではなく、“退化”であり、それが会社の危機を招くこともありえます。
実際、世の中を見ても、好調だった会社がある日突然、逆風に見舞われることは珍しくありません。著しく変わる環境には、行動変容を通して対応していかなければならないのです。