Opinion対談 グローバル時代における「日本的」の意味を問う
これまで日本企業の強みとされてきた、「人づくりの力」。今後、グローバルな舞台において、その強みはどのように発揮されるのだろうか。また、課題はどこにあるのか。人材マネジメントの教育研究で第一線に立つ一橋大学大学院商学研究科教授守島基博氏と、中央大学大学院戦略経営研究科の特任教授であると同時に、現在外資系金融機関の人事実務に携わる中島豊氏に、それぞれの立場から話を伺った。
丁寧な「人のケア」が育てるローカル人材
―― 本日は、グローバル化が進む中で、どうしたら日本企業が、日本的な強みを生かせるかというテーマで対談をしていただきたくお集まりいただきました。
中島
この問題を考えるうえで、まずは何が「日本的」なのか、単純な比較論では語れないことを認識しておいたほうがいいのではないでしょうか。
日頃、私たちは「向こうに比べて日本はこんな点が弱い、こんな点が強みだ」などといいがちですが、この場合の「向こう」というのはつまり主として米国のこと。グローバル化といっても、向こう側とこっち側の二元思考をしていたに過ぎないんです。1980年代の国際化(インターナショナリゼーション)の時代から進歩していない。
一方、香港やシンガポールのビジネスパートナーと話していて気づくのは、彼らが多元思考の持ち主だということ。欧州、米国、アジアを同時に見ている。二元思考から多元思考に切り替わると、単純な優劣がなくなります。それぞれが違うわけですから。そうすると簡単に自国の強み、弱みを口にしません。
守島
私も「日本的」という言葉を久しぶりに見たという気がしています。現在多くの日本企業が直面している経営のグローバル化とは、過激なたとえかもしれませんが中国の「文化大革命」のようなものなんです。それほど大きく変化しなければならない。そのため、今後を考える上では今、
中島
さんがおっしゃったような視点を踏まえたうえで、何が「日本的」な強みなのか、再考する必要があると思います。
中島
日本的という定型のものがあるわけではないでしょうね。
守島
そうですね、これから、日本企業がグローバル経営に移行するうえで、日本のノウハウやシステムのうち、強みとして活かせるものと活かせないものがある、と考えるといいのではないでしょうか。
それらはすべての業種において機能するものではないでしょうし、またグローバル経営に移行する過程で、ある段階では強みになり、ある段階では弱みになるというものかもしれません。
そういう前提を踏まえたうえで、人材グローバル化の問題を検証するなら、大きく分けて3つの論点が挙げられると思います。
①外国人社員、特にボトム層のグローバル化。②中堅層における次世代グローバル人材育成。そして最後に③トップ層のグローバル化です。
中島
まず、①ボトム層のグローバル化について言えば、日本企業の伝統的な育成ノウハウは、1つの強みになると思います。
きめ細かなケアによって内部労働市場を育て、企業の人的資源を確保していく知識やノウハウは、日本企業が伝統的に持つ強みといっていい。
特にチームワークが要となる自動車などの製造業や、ホテル、銀行窓口といったサービス業では、こうした日本型の育成力が物をいいます。
守島
たしかに、1人ひとりの育成という点では、日本企業は非常に優れているんですね。新卒入社の若者を、まるで植物を育てるかのように丁寧にケアする。
たとえばコマツのグローバル人材ポリシーは、生まれ育った国や地域、宗教・信条を問わず、すべての従業員をフェアに扱う、というもの。ファクスを送る時なども、日本語版より先に現地語版を送るそうです。
そうした小さな心遣いを積み重ね、ローカル人材を尊重した環境の中で育成するのは日本企業の特徴です。
コミュニケーションの壁さえ越えられれば、このノウハウはローカル人材のマネジメントにも有効に働くはずです。だから、外国人留学生を採用すると、すっかり日本びいきになることも多いようです。
中島
新卒を採用して現場でじっくり育てるのが日本流ですが、欧米企業ではこれが理解されないことが多い。なぜわざわざ戦力にならない新卒を育てるんだ?
手間がかかってしょうがないじゃないか、と。日本企業の意識とは、大きなギャップがありますね。
ただ新卒採用は守り通すべきだと思います。米国のように大学卒業後、ビジネススクールに行く余裕のある人しかホワイトカラーの仕事に就けなくなると、極端な二極化が進んでしまう。
守島
私も新卒採用には賛成ですね。現場に人を育てる意識が根付いている日本の強みでしょう。
香港など外部労働市場ができている国では、せっかく育てても中国企業や欧米系の企業にすぐヘッドハントされてしまうのが残念ですが。
中島
日本では外国人に対する差別意識も比較的薄くなったと言えるんじゃないでしょうか。ダイバーシティー活動が浸透したおかげで、異分子を排除する風潮もここのところだいぶなくなりました。
守島
外国人社員側の日本に対する理解も深まっている。「飲めばわかりあえるよ」という日本式の文化も浸透しているようです。
ダイバーシティー・マネジメントの要は、実はこうした個人レベルの付き合いにあったりします。