企業事例(考える③) 万協製薬 書いて笑って、“全社員が考える経営”を実現
2009年に日本経営品質賞を受賞し、一躍、全国にその名が知られるようになった万協製薬。1995年に阪神淡路大震災で被災した同社は当時、苦しい再スタートを余儀なくされたが、その後の飛躍的な成長は、同賞の審査員に「これまでの継続的革新の軌跡は、経営品質の考え方を実践した第二創業のモデル」といわしめた。同社の躍進を支えた“全社員が考える経営”と、それを実現したオリジナリティあふれる施策を紹介する。
顧客の要求を全従業員が考える経営
万協製薬は、1960年に兵庫県神戸市で外用薬の製造会社として創業。今年、創業50年を迎え、スキンケア商品専門の企画・開発・製造会社として成長を続けている。
同社は、1995年の阪神淡路大震災で本社と工場が全壊し、翌年、三重県多気郡多気町で再創業している。この時の経験が、同社社長松浦氏の人生観や経営哲学に大きな影響を与えたという。
「震災で家が壊れ、会社が全壊し、私の町は2日間燃え続けました。それをきっかけに、実父から経営を引き継いだ私の最初の仕事は、全従業員の解雇でした。会社が全壊してしまっては、従業員を抱えていられないからです。その時の皆の顔は、生涯忘れることができません。私はその日以来、会社は何のためにあるのか、経営者は何のためにいるのかと、考え続けてきました」(松浦氏、以下同)
松浦氏は自問自答を繰り返す中で、万協製薬の新しいあり方、新しいビジネススタイルを模索していく。そしてたどり着いたのがメーカーでありながら“サービス業”を標榜するスタイルであり、「顧客の要求を全従業員が考える経営」だ。震災以前はさまざまな製品を製造していた同社だが、再開に当たって、限られた資本の中での選択と集中を行った。その答えが、他社ブランドのための、スキンケア製品の企画・開発・製造を一手に手がけること。この業界では非常に珍しいビジネスモデルを打ち出した。さらに、万協製薬は製造業でありながら、自らをサービス業と位置付け、徹底した顧客第一主義を貫いた。自社だけの繁栄を追求するのではなく、顧客と自社が強く結び合ってこそよいものができるという、同社のスローガンを反映したスタイルである。
さらに、専属の営業部隊を設けず、顧客からのさまざまな要望に全社で対応していくという営業スタイルを確立。これが、「顧客の要求を全従業員が考える経営」である。これを実現するには全社員に商品知識、顧客に対する知識、コミュニケーション力、状況に合わせた判断力などが必要で、まさに全社が「考える組織」になる必要があった。
組織能力向上の仕組み
松浦氏は、考える組織をどのようにつくっていったのか。
「実は私は、個人を教育する、育てるなどということができるとは考えていません。そう考えること自体、おこがましいことだと思います」
しかし、社員が自ら考える力を育むよう仕掛けていることは、松浦氏の話からよくうかがえる。個人を育てるのではなく、全社員が自ら育つような場を設定しているのだ。
その仕掛けを紹介する前に、まず、同社の人材育成に関する考え方を紹介する。
同社では、会社は個の才能を競い合う場ではなく、助け合う場であるべきだという考えに立っている。したがって、個の育成よりも、全体のレベルアップを大切にしている。後述するように、個の能力を高める仕組みはもちろんあるのだが、考え方として、個を高めて束ねるのではなく、組織能力をいかに発揮させるかに重きを置いているのである。
・社員全員が価値観を共有すること