重重無尽 新しい発想を生む若手研究者を育てる
私が研究総括をつとめている「さきがけ」は、国の戦略目標に沿って設定された研究領域に関する研究テーマを公募し、選考・採択された研究をサポートする機関。科学技術振興機構の『戦略的創造研究推進事業』の1つです。最大の特徴は、対象が研究チームではなく、個人研究者だということです。
我々の研究領域は“iPS細胞と生命機能”。iPS細胞(Induces Pluripotent Stem Cell)は、ご存知のように京都大学の山中伸弥教授が、世界で初めて作製に成功しました。
私たちの体を構成している約60兆個の細胞は、たった1つの受精卵から変化したもの。その変化は一方向性のもので、二度と元に戻ることはない、というのが定説でした。ところが山中さんは、ヒトの皮膚細胞をさまざまな細胞に変化する能力を持った細胞、いわば受精卵の状態へ逆戻りさせることに成功したのです。
細胞を人間にたとえるなら、こうして研究者をしている私を、スポーツ選手や政治家など、何にでもなれる可能性を持った状態へと戻すようなもの。実に画期的な技術なのです。
「さきがけ」がサポートしているのは、30代を中心とする若手研究者。iPS細胞という全く新しい概念を、若い人たちがどう研究し、どう使うのか――ここに私は興味を持ち、コーディネーターにあたる“研究総括”を引き受けることにしました。