調査データファイル 第104回 番外編 地域密着型商品開発で成功した「吉田ふるさと村」に学ぶわくわくする仕事が若手社員を活性化する
過疎地域の活性化を見込んで設立した会社の多くが第三セクターであるが、うまく機能している企業は少ない。そんな中、官からの出向者や退職者を受け入れず、行政支援は出資金のみにとどめて65名もの雇用を生み出し成功している「吉田ふるさと村」。同社の成功の影には大ヒット商品の開発があるが、携わったのは若手人材であり、教育訓練は開発プロセスそのものという。グローバル企業にも匹敵する、その手法を検証する。
1.寒村の起爆剤となった村民出資の会社設立
株式会社吉田ふるさと村は、島根県の山間にある食品加工業を中心とする第三セクターの会社である。この会社を全国的に有名にしたのは、独自に開発・生産した卵かけご飯専用醤油『おたまはん』の大ヒットである。このヒット商品の開発成功などによって、同社は過疎地域で65人の雇用を生み出している。
吉田ふるさと村がある島根県雲南市吉田町は、松江市中心街から国道54号線を広島県方面に約1時間30分ほど車で走った、緑深い山間に位置する。2004年11月に6町村が合併して雲南市吉田町となったが、それ以前は吉田村であった。
旧吉田村は、昭和30年代まで林業、製材や製炭で生計を立てていたが、林業の衰退とともに過疎化が進行。1960年当時の人口は約5000人であったが、町村合併時には約2400人と半減した。さらに、合併後も人口流出は続いており、ここ5年間でも200人以上の人口減少となっている。
吉田ふるさと村は、過疎化が進行する村の現状に危機感を募らせた藤原俊男氏を中心に企画・構想された。現・代表取締役社長の藤原氏は雇用の創出と地域経済の活性化を目的として、吉田ふるさと村の設立を計画したのである。
同社は1985年3月末、村役場から500万円、発起人や村民37名から1000万円の出資金を受け、資本金1500万円で設立された(写真1)。さらに、同年7月には資本金を2750万円に増額し、株主数も105名になった。村民は投資経験などがないため、配当やキャピタルゲインを狙うといった考えはなく、「村の会社に寄付する」といった感覚で出資した。その後2004年の株主総会で、村の出資比率を50%から33%に引き下げることが決定され、町村合併後も村の出資分は雲南市に引き継がれている。
初年度の売上高は4840万円、332万円の赤字であったが、第3期末には3万円の利益を計上して黒字化している。さらに、第11期終了時には累積赤字を解消し、2003年度以降は出資者に対して年2%の配当を実施するほどまでになった。
順調に良好な経営基盤を確立できた背景には、吉田ふるさと村が他の多くの第三セクターと異なり、設立当初から、行政からの出向者や退職者を受け入れていないことがある。こうしたことになったのは、村議会が「赤字の尻拭いをさせられては大変なので、経営には直接立ち入らず同社への支援は出資金にとどめておく」といった方針を打ち出したことにある。これが経営の自律性を確保するとともに、コストのかからない経営を実践し、早期の黒字転換を実現させたのである。