論壇 研究者・技術者はR&Dビジネスリーダーをめざせ ~スペシャリストからプロフェッショナル、そしてビジネスリーダーへ~
今、研究開発部門の存在価値が問われている。研究開発投資の割にその成果が少ないとの指摘が経営者をはじめとして多いのだ。魅力的なアイデアやテーマを事業化につなげ、企業の成長戦略の一翼を担うR&Dビジネスリーダーになるにはどうしたらいいのかを本稿では紹介する。
R&Dビジネスリーダーの必要性とは
世界経済の成熟化や中進国企業のコスト・リーダーシップ戦略の積極展開といった経営環境の中で、研究開発への期待が近年とみに高まっている。日本企業の多くは企業業績が厳しい時期においても、研究開発投資は大きく減額せず長期トレンドでは増額させてきた。しかしその一方で、研究開発の最大の成果となる新製品・新事業が投資額の割に生まれていない企業が多い。つまり、研究開発の生産性が伸び悩むか、あるいは低下傾向にある企業が大半を占めているのである。
研究者・技術者の大半は今や大学院の修士課程の卒業生である。彼・彼女らの根源的な思いは「独創的な研究をしたい」というものだろう。この根源的な思いは、研究者に欠かせない「セレンディピティ(serendipity:思わぬ発見をする特異な才能)」を発揮させる原動力となる。
しかし、研究者としての根源的な思いが組織全体として過度に優先されてしまうと、研究開発の生産性低下につながる。そのため、魅力的なアイデアやテーマの事業化のゴールを構想し、そのゴールに向けてリーダーシップを発揮して事業化につなげていく「R&Dビジネスリーダー」の育成が求められている。
R&Dビジネスリーダーに求められる能力
R&Dビジネスリーダーを育成するためには、研究者・技術者のキャリア・パスの一環としてR&Dビジネスリーダーを位置づけ、組織として計画的に養成していく必要がある。
一般にR&Dビジネスリーダー養成には、①選抜研修を実施したのちOJTを通じて育成していく方法と、②中堅研究者・技術者全員にビジネスリーダー基礎研修を行い、実践の中で次第に選抜していく方法の2つがある。どちらが正解ということはなく、企業の組織文化や経営環境を踏まえて選択すべきだろう。
R&Dビジネスリーダーに求められる主な能力は「①ビジョン・戦略構想力」、「②マーケティング力」および「③プロジェクト・リーダーシップ力」の3つに集約できる。この3つの能力をOJT、Off-JTの両方の場の中で高めていくことが求められている。以下では、その3つをどのように伸ばしていけばいいのかを紹介しよう。
①ビジョン・戦略構想力
R&Dビジネスリーダーに求められる第一の能力は、未来を受動的に受け容れるのではなく、自らの意思と能力で切り拓いていくための意識、知識、行動力である。未来を予測しつつ、現状を客観的に見つめた将来のビジョンをまず構想する。そして、ビジョンと現実(現状)のギャップを解消する重要な戦略課題を抽出し、それを解決していくためのシナリオ作成・計画立案の能力が重要だ。
しかし、実際は研究者・技術者が事業戦略や技術戦略、新事業戦略を策定するチャンスはあまりない。そのため意図的に戦略策定の場を設定する必要がある。経営企画と研究開発部門の幹部層がタスク・フォースをつくって戦略策定する、研究開発部門内の実践研修で部門内中堅リーダーが戦略仮説を策定し経営層や経営企画に提案するといった場づくりが必要となる。