ベンチャー列伝 第21回 スタッフの創造性を引き出し人が辞めない組織をつくる
レストラン事業を展開し、その独自のサービスと教育体制でも知られるHUGE。スタッフの長所を伸ばしながら専門職として育成する、“人が辞めない組織づくり”を行っている。
アルバイトが辞めずにキャリアを実現する会社
徹底した実力主義の人材登用で知られるレストランチェーンのグローバルダイニングで“接客の神様”と呼ばれていたのが、現在HUGE代表取締役社長の新川義弘氏だ。
新川氏は前職在籍時に、実績主義の重要性や価値について十分に理解していたものの、果たしてそのやり方だけで質の高いサービスが実現できるのか、それを可能にするのは心の余裕や自主性なのではないかと考えるようになっていく。そして2005年、独立してHUGEを設立。その際に考えたことは、どうやったら人が辞めない会社にできるかということだった。
「飲食業界は、現場の離職率が高いことで知られています。マネジメントする側が、アルバイトのポジションを1つのコマとしてとらえているからです。しかし、現場にいる多くのアルバイトの人たちに頑張ってもらわなければ店は回りません。そう考えた時に、まずアルバイトが辞めない会社にしなければと思いました。彼らに長く就業してもらい、将来、独立や就職など、次にやりたいことを考えた時に、HUGEというグループの中でそのキャリアプランが実現できるのであれば、きっと辞めずに残ってくれると考えたのです」(新川氏、以下同)
経営理念を支える3つのバリュー
“人が辞めない組織”の基盤となるのが経営理念の「百年品質レストラン」である。この理念は、「ホスピタリティ」「クリエーション」「オペレーション」という3つのバリューに支えられている(次々ページ図表)。
サービス産業であるから、まずは「ホスピタリティ」が欠かせない。新川氏は常に「金曜日のディナータイムにできないことはやるな」といい続けている。つまり、忙しい日とそうでない日に、サービスの出来・不出来の差があってはいけないということである。
そしてそれができるかどうかは、「オペレーション」にかかっている。ここが不安定だと、満足なサービスができないどころか、スタッフが主体性を発揮できず、サービス業として大きなリスクを抱えることになる。だからこそ新川氏は「オペレーション」を、経営理念を支える柱の1つとして位置付けているのだ。
さらに新川氏は、店舗は個人の創造力を最大限に活かしていく場所であるべきだと考え、「クリエーション」を3本目の柱と位置付けている。新川氏は、組織をやみくもに大きくしていこうとは考えていない。1つひとつの店舗を、その地域の顧客に愛着を持ってもらえる「街の資産」にしたいと考えている。店長には、個人商店の主のように創造力を持ち運営することが求められているのだ。
これを実現する各店の店長やチーフにとって一番重要なのは、その地域に興味があるかどうかだ。「まずは3年間、その地域に馴染んでこい」が、新川氏がスタッフを送り出す際の言葉である。
東京・丸の内の新丸ビルに「リゴレットワインアンドバー」という店がある。オープンして3年が過ぎ、その間店長は、丸の内という街で彼なりに気づいたことをヒントに、サービス内容やメニューを次々と変革していった。それらが街に馴染み、愛されていった結果、3年目の今、同社の店舗の中で売り上げが最も良いという。離職率もこれまでで一番低くなった。