第3回 CAの成長を支える「点と線」の育成ネットワーク リフレクションを促すフライト後の“デブリ” 林 靖子氏 ANA 客室本部 品質サポート課マネジャー|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
今、エアライン業界では、競争が激化しています。そうした中、ANAでは国際線を拡大する戦略を打ち出し、今まで国内線、国際線に分かれていた客室乗務員(CA)の一本化を図るため、育成に力を注いでいます。世界に羽ばたくCAの育成の秘密は、“現場の学び”にありました。
現場での育成に効果的な“プリブリ”と“デブリ”
今回伺ったのは羽田空港にあるANA客室本部の客室乗務センターです。ここは、羽田空港を利用するすべてのANAの客室乗務員(CA)たちが、フライト前後に立ち寄る場所。大きな窓からは滑走路を一望でき、とても明るく開放的な空間です。広々としたオフィス内には、颯爽と歩く制服姿のCAの方々がいっぱい。あちこちで、笑顔で挨拶を交わし、談笑する様子が見られ、フロア中に活気があふれています。
CAは、ショーアップタイム(出勤時間)として定められた時間(便にもよりますが、通常フライト1時間~1時間40分前)までに、制服に着替えを済ませて、このオフィスに出勤します。出勤したCAは、備え付けの専用端末で、出勤確認、伝達事項やフライトに関する情報をチェック。
その後、チーフパーサー(主客室乗務員)を中心に、同乗するCAが1つのテーブルに集まり、フライト前の打ち合わせ、“プリブリーフィング(通称プリブリ)”を行います。
滑走路を望む窓際のオープンな打ち合わせスペースに案内していただくと、あちこちのテーブルで、プリブリが開かれていました。
主な司会役はチーフパーサー。全員が搭乗機の機内図や分厚いマニュアル(下部写真)を手にしています。プリブリで話す内容は、保安知識の確認、機材や装備品の確認、フライト情報やお客様に関する情報、メンバーの自己紹介、サービスプランの説明や、機内でのポジション、役割分担、注意事項や目標の共有、身だしなみチェックなど。目標に関しては「シートベルトの常時着用を促しましょう」といった安全に関するものから、機内販売の売上目標、個人の達成目標まで、全員で共有します。約15分のプリブリが終わったら、そのまま揃って搭乗です。
興味深いのは、フライト前のプリブリをしているすぐ横でフライト後の反省会、“デブリーフィング(通称デブリ)”が行われていること。少し疲れた表情のCAたちが、終えたばかりのフライトについて振り返っています。デブリはフライト後、10~20分程度行われているとのこと。内容は、フライト全体がどうだったのか、プリブリで共有した目標の達成度や機内販売の売上額、顧客からの声や機内で起こった事例などについて。
たとえば、フライト中に起きた突発的な揺れに関し、チーフパーサーが「万が一そのような状況が起きた時は、まず皆さんの安全、お客様の安全が第一です。積極的な声かけをするなど、自分の判断で『今、どうすべきか』を考えて行動してください」とアドバイス。
最後は、「皆さんいろいろと課題があったり、習熟中のものがあったりしたかと思いますが、大切なのは今日、周りの方からいただいたアドバイスを持ち帰り、次に生かしていただくということかと思います」と、しっかりまとめていました。
デブリでは、フライト中に起こった出来事、気づいたことについて非常に具体的に話しながら振り返ります。フライト直後に、全員で振り返りを行うことで、他メンバーからのアドバイスも得られ、現場での経験から効果的に学ぶことができるのです。