人材教育最前線 プロフェッショナル編 「私」を主語に語れる人材が真のグローバル企業をつくる
海外売上比率25%の早期実現に向け、海外事業の拡大を重要戦略に位置づける日本電気(NEC)。最先端のICTにより、グローバル規模の課題解決や、持続性のある社会づくりをめざす「社会ソリューション事業」の構築には、グローバルに活躍できる人材の育成が欠かせない。そんな同社で人事部 シニアエキスパートとして国際人事企画を担当する籔本潤氏。「私はこうしたい」「私はこう思う」という言葉と、それを裏づける信念と知識を大切にする籔本氏が求めるのは、海外で通用する、日本人の真のグローバル化である。
主語は「私」で語れ
NECで人事部のシニアエキスパートとして国際人事企画を担当する籔本潤氏。5 名のチームメンバーを率いる同氏が常に伝えているのが、「主語を“私”で語れ」だ。例えば、相談する時や企画を提案する時に、「私はこう思う」「私はこうしたい」と主語に“私”を置いて話をさせる。
「メンバーが『私はこうしたい』と言えば、当然私は『なぜ?』と聞きます。その“なぜ”にきちんと答えるためにはバックグラウンドが必要ですし、自分の想いも必要です。反対に、『私は』がないコメントは中身が薄い。自分の主張を自信を持って言うために、自分の中でちゃんと腹落ちするよう一生懸命考え抜くことに意味があるのです」
当事者意識を持たずに実行し失敗した場合、その原因を環境や周囲に転嫁してしまいがちだ。だが自分を主語にすることで、「最後まで責任を持ってやらなければ」という意識が生まれる。さらに結果が成功でも失敗でも、振り返った時にその要因を自分ごととして考えることができる。
「人事の課題には模範解答がありません。だから何かを始める時に唯一信頼できるのは、『自分はこうしたい、自分だったらこう思う』という“想い”です。それを周りにぶつけて、『違うよ』と言われ、もう一度考え直してみる。それでも『やっぱり自分はこうだ』と思った時、その時点の正解が生まれるのだと思っています」
籔本氏がこうした考えを持つようになったきっかけは、海外での勤務経験にある。
人事部配属前の2008 年から2013年まで、EMEA地域統括会社であるイギリスのNEC Europe Ltd.に出向し、地域にあるグループ会社の人事諸制度統合と報酬制度を担当した。人事部門の同僚は全員ヨーロッパ人だったが、同僚はいつも「I (私は)」で語り、自分の意見や想いを遠慮なく互いにぶつけ合い、とことん議論し、結論にコミットしていた。
「日本人は、“私は……”という想いを持っていてもそれを表すことを躊躇し、“正解”を探そうとする傾向があります。ですが、彼らと一緒になってグローバルにビジネスを展開していくためには、まず『自分はこうありたい』という強いマインドや信念を持ち、しっかりと発信する必要があると感じたのです」
海外で学んだ「主張」の大切さ
籔本氏は海外事業所に出向するまで、本格的に英語を使った仕事をしたことがなかった。入社後に配属された中央研究所で人事として外国人研究員の受け入れを担当していた頃に英語を使っていたが、ビジネスに直結する内容ではなかったという。