KEYWORD 6 リベラルアーツ教育の具体策
海外とビジネスを行う、グローバル人材の育成策の中で、特に受講者に身につけてもらうのが難しいのが「教養・リベラルアーツ」だろう。
具体的にどのように学んでもらえば、教養は身につくのだろうか。
そこで、2013年からリベラルアーツ教育を導入し、注力しているトヨタグループの総合商社、豊田通商の人事部人材開発グループ・グループリーダー田中伸行氏に、リベラルアーツ教育の重要性や、具体的な施策について伺った。
国際ビジネスに必要な“教養”
企業の人材育成のプログラムというと、MBAに代表される経営に直接つながるものがほとんどだろう。当社ではそうした教育ももちろん行っているが、これに加え、リベラルアーツ教育を幹部育成や階層別教育に導入している。
リベラルアーツとは、宗教や哲学、文学、歴史、芸術など人文科学分野の学問で、企業経営には直接関係がないと一見思われがちな“教養”である。その“教養”を当社が重視する理由は、いくつかある。
1つは、グローバルなビジネスにおいて良好なパートナーシップを築くうえで非常に重要になるためだ。
当社は、トヨタ自動車グループの企業ということもあり、現在、自動車関連のビジネスが収益の6 割を占めている。しかし、自動車への依存度を下げるため、2015年までに自動車以外のビジネスの割合を5 割まで拡大することをめざした「VISION 2015」を掲げてきた。
この目標の達成が視野に入ってきたことから、事業領域を「モビリティ」(次代の自動車の進化に貢献する事業)、「アース&リソース」(地球課題の解決に貢献する事業)、「ライフ&コミュニティ」(生活環境の向上に貢献する事業)に再編し、2020 年度までにこれら3領域の収益比率を同等にするという戦略「TRY1」を新たに打ち出している。
新分野に進出する際、当社では、その分野の経験や知識が豊富な企業とパートナーシップを結び、事業を展開する戦略をとっている。一流のパートナーを選んで組むのだが、海外の一流企業や公的機関の幹部は経営の知識やスキルだけでなく、教養も豊かな人が多い。したがって彼らと互角に渡り合うには、こちらも相応の教養や品格を備えていなければならず、リベラルアーツ教育が不可欠になるのだ。
さらに、そうした表層的な面だけではなく、ビジネスパートナーと真の信頼関係を築くうえでも、リベラルアーツは重要になる。信頼される人間になるためには、一人ひとりが自身の判断の軸を確立することが重要だ。
そしてその軸の確立には、自身のアイデンティティの土台となる、日本や日本人について深く理解することが必要になることから、日本の歴史や文化、哲学などを学ぶことが欠かせない。
ナショナルスタッフ向け研修も
もう1つ、海外事業所の社員(ナショナルスタッフ、以下NS)の育成の観点からも、リベラルアーツ教育は重要になる。
当社では、これまで海外の拠点も、トップとマネジャー層は日本人が務めてきた。しかし今後はさらに現地化を加速させる。現在20 名程度の部門長クラスのNSマネジャーを、大幅に増員することを検討している。