企業事例2 対話と経験の振り返りから 管理職が学ぶメンタリング
住友スリーエムでは、課長職までの全社員を対象にメンタリングプログラムを実施。社員の自主性を重視した制度だが、メンタリングを単なるキャリア相談の場としてとどめず、自主的な学びの機会とするために、人材開発部門がサポートする独自の工夫をしている。管理職は、メンティとして相談することも、メンターとして相談に乗ることもある。この双方の立場での学びが、管理職が日常的に学ぶうえで大きな役割を果たしている。
課長職も対象のメンタリングプログラム
企業での学びは、研修や自己啓発だけではなく、経験の振り返りと対話によっても起こる。その一例が、住友スリーエムで実施されているメンタリングプログラムだ。メンタリングとは、国際メンターシップ協会の定義によると「特定の領域において知識、スキル、人脈などの豊富な人(メンター)がそうでない人(メンティ)に対して成果と意欲の両面において、ともに学びながら一定期間継続して行う支援行動全体」のことを指す※1。日本企業では、新入社員の育成や、女性管理職登用のための支援策としてメンター制度を導入することが多い。経験の浅い社員(メンティ)が、豊富な経験を持つメンターと個別に話ができるため、一人ひとりのキャリア支援や、実務に即したアドバイスの機会として有効とされる。また一般的に、メンター制度を設けた場合、管理職はメンターになることがほとんどだ。管理職自身がメンタリングを受けられる仕組みを持つ企業は多くはない。その点、住友スリーエムのメンタリングプログラムは、メンティの対象を課長職まで広げている点が特徴的である。また、課長職の場合、自分がメンティになることも、メンターになることもできる。この両方の立場からメンタリングに関与することが、同社の管理職、特に課長職層の社員にとって貴重な学びの機会となっているのだ。
住友スリーエムにおけるメンタリングの変遷
同社のメンタリングプログラムが現在の形になるまでには、いくつかの変遷があった(図表1)。初年度の2002年はダイバーシティ促進を目的として行われ、6名の女性社員をメンティとし、役員等がメンターを務めた。当時の成果について、人財開発部長の太田至彦氏は次のように話す。「当時から、メンター・メンティ双方に良い効果があったようです。メンティからは、経営トップの考え方を知ることができた、キャリアのヒントをもらったなどの声が、メンターからは、女性がキャリア上のどういう点で悩みを持ちやすいのか理解することができたといった感想がありました」(太田氏、以下同)その後も同プログラムは順調に参加人数を増やしながら実施されてきたが、2005年にダイバーシティ促進を目的としたメンタリングはいったんの区切りを迎える。そして2007年、メンタリングプログラムの方法を大幅に改定。メンティの対象を拡大し、新入社員を対象とした「プログラムA」と、入社3年目から管理職層(課長)までの全社員を対象とした「プログラムB」に分けて行うこととなった。「社内でメンタリングの認知を高めることと、より育成に主眼を置いた体制に変更することを目的とした変更です。メンタリングの対象者も、受けたい人全員に門戸を開く形にし、メンターは立候補した社員になってもらいました。それを人事がペアリングしていたのです」