Opinion 1 専門的な知識を増やし組織としての余剰を生む ミドルの学びとは
一人前とは、通常が想定される状況で仕事ができること。そのため環境が変化し続ける現在では一人前であるためには継続的な学習が必要だ。だが、起こりつつある環境変化を前に、「何を学ぶべきか」を考えるのでは間に合わない。変化に対応する準備をしておくために、ミドルは、何をどのように学ぶべきか。そして人事はどのようなサポートができるのか。
ミドル世代の社員も成長し続けることが必須
「成長」という言葉や概念は、もっぱら若い人を対象に使われており、ミドル以上の世代と結びつけられることはほとんどない。入社したての頃は誰もが成長に重きを置かれるが、ある程度の年数が経過すると、成長よりも成果が求められるようになる。特に日本の企業は過去30年以上にわたり、この“一人前になったら、成長ではなく成果を”というメッセージを出し続け、社員たちもその考え方を共有してきた。しかし現代を生きる日本のビジネスパーソンは、一人前になった後も、成長や自己変革を続けることが絶対に必要である。なぜなら、そもそも「一人前」というのは、通常の状況が前提にあって成り立つものだからだ。すなわち一人前の社員とは、『ある一定の仕事を遂行することにおいては一人前である』ということを意味する。グローバル化やテクノロジーの進化などによって、ビジネス環境が変われば、仕事の内容もどんどん変わっていく。そうなると、すでに一人前だったはずの人も、一人前ではなくなる。たとえば「マネジメントに関しては一人前」という人は、「上司も同僚も部下も日本人、仕事を終えると居酒屋でコミュニケーションを深めながら、仕事の愚痴をこぼし合う」といった職場環境の中で少しずつマネジメント能力を身につけ、リーダーになり、課長になり……というキャリアを歩んで一人前になったわけだ。だからもし海外へ赴任し、現地の人をマネジメントする場合、その時点でその人は一人前ではなくなる。今後、ビジネス環境によって仕事の内容が変容し、一人前でなくなってしまうケースは、さらに増えていくだろう。「一人前」を代表するような立場にあるミドル層にとっても、学習や学びが欠かせない理由がおわかりになっただろうか。では、ビジネスマンたちの学習の実態はどうだろう?今、最も学習熱が高いのは20代後半を中心とする若い層である。彼らは資格取得のための勉強、読書、勉強会などに、多くの時間とお金を費やしている。また部長以上の層も、会社主催の研修や自己啓発などにより、かなり熱心に勉強しているというのが私の印象だ。問題は、その間に位置するミドル層。多くの人が本来は勉強家で、学習意欲も高いが、最も仕事が忙しい世代であり、勉強する時間や余裕がないというのが現状だ。
幅広い知識や専門性を学ぶ“横方向への学習”が急務
ミドル層にとって必要な学習は、大きく2つに分類できる。1つめは、多くの企業で行われている経営力開発だ。リーダーシップや経営戦略など、経営層に求められる知識や能力を身につけることが目的のものである。新入社員の時代から管理職になるまで、誰もが行ってきた学習の延長で、専門性や管理能力を上に向かって積み上げていく、いうなれば「縦方向への学習」だ(図表1)。もう1つは、すでに持っている専門性を拡大する、あるいは新たな専門性を築くことで、横への広がりを獲得する「横方向への学習」。