酒井穣のちょっぴり経営学 第11回 画期的なイノベーションが起こりにくい理由
ここまで、リーダーシップやマーケティング、会計、ファイナンスなど、戦略を考える際や会社の状況把握に役立つ基礎知識について見てきた。今回は、持続的な企業経営を考えるうえで重要な「イノベーション」を取り上げる。イノベーションとはどういったものなのか、またその性質について整理して見てみよう。
経営学とイノベーション
今回は「イノベーション」について。経営活動にとってイノベーションは、その根幹を成す、最も重要な概念です。イノベーションは日本語だと「技術的な革新」と理解されることが多いのですが、経営学的には、もっと広い概念なので注意が必要です。イノベーション(innovation)の語源とされるのは、ラテン語の「innovatio(=in+nova)」。「新しいもの(nova)を内側(in)に取り入れる」というのが本来の意味です。つまり、経営学においてイノベーションを考えるということは、技術的なことに限らず、ビジネスモデルなども含めて「新しいものを生み出していく力」について理解しようとすることなのです。
イノベーションの定義
イノベーションの定義としては、大きく2つのものを理解しておく必要があります。1つは、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターによる「不断に古いものを破壊し、新しいものを創造して、たえず内部から経済構造を革命化していく産業上の突然変異」という定義です。これは、イノベーションを「創造的な破壊」として捉えるモデルで、イノベーションに対する一般の理解とも合致するところが多い考え方でしょう。もう1つは、アメリカの経営学者マイケル・ポーターによる「イノベーションの多くは、大きな技術革新ではなく、むしろ小さな改善の積み重ね、途切れることのないアップグレードである」というものです。こちらは、気がつけばすごいことになっていた、というように、イノベーションを「持続的な改善」として捉えるモデルで、俗に、日本が得意とするモデルといわれます。