企業事例1 自ら考え、行動し、学びとらせる 「黒板のない教室」
「いわれるまで動かない」「自分で考えられない」といったことが若手社員の課題として掲げられる中で、「そもそもなぜ学ぶのか」ということから徹底的に考えさせ、自ら学びとらせる研修がある。自動車部品等の生産、販売、研究開発大手の矢崎総業が行うアドベンチャースクールだ。内定者のうち希望者に対し、海外で1年間の研修期間を与えるというユニークな同社の取り組みを通して、いかに自ら学び、挑戦する人材が育っているのか。その実際を聞いた。
1年間の“海外武者修行”、アドベンチャースクール
内定後1年間、海外に行って何をしてもいい。渡航費と最低限の滞在費は会社が負担。行先も、やることも自分次第――これは、矢崎総業が内定者を対象に行っているアドベンチャースクール(以下AS)というプログラムの概要だ。1993年、外国語教育研修機関とともにプログラムを開始して以来、18年間で1200名近くが参加。渡航先は36カ国に及ぶ。「ASは学習者の学習能力を活性化させるためのプログラムなんです」と話すのは、人事部でAS事務局の望月英史氏だ。「ASとは、内定者を対象とした1年間の“海外武者修行”です。参加資格はなく、希望者は誰でも参加できます。現地で何をするかについて、会社からの要求や指導は一切ありません。ルールはありますが(図表)、この範囲内であれば好きなことをしていい」(望月氏)本人がやりたいことをやる時、本人の学習脳が開花するという考え方に基づいた、まさに自ら学ぶための機会なのだ。ASは、同社の海外展開の戦略に沿った仕組みである。1960年代にタイに初の海外拠点を設置して以来、「世界とともにある企業」「社会から必要とされる企業」という社是に基づき、積極的に海外展開を推し進めてきた同社。現在では39カ国に162法人、421拠点を持つ。そのため、日本とは異なる環境でも活躍できる人材の育成に注力しており、AS以外にも海外出向予定者を職場から離して6週間外国語漬けにするインテンシブ研修、各工場で日常的に英語を学べるOJT職場英語といった、海外展開を睨んだ学習支援は手厚い。「中でもASは、当社の企業風土を凝縮した研修です。海外で必要なのは語学だけではありません。これから職業人としてやっていけるだけの総合的な人間力のような、大学では学べないことをASで経験できればという考えに基づき、プログラムが設計されてきました」(望月氏)1993年以来、試行錯誤を繰り返して現在の学習者中心のプログラムが形づくられてきた。たとえば集団だとどうしても日本人だけで固まり、日本での習慣を持ち込んでしまう。よりチャレンジ精神を持った人材の要請が高まるにつれ、PDCAを回しながらプログラムを改善してきたのだ。「ASの現在の目的は、異文化対応力、創造力、チャレンジ精神、自主性、ついでに語学力も身につけてもらうこと。学生でも矢崎社員でもない1人の人間として海外を歩いた時に、どんな挑戦ができるかという部分を重視したいわゆる“ギャップイヤー”なのです」(望月氏)
行程は全て自分で考え実行する
実際にASのプログラムを見ると、そのコンセプトは明らかだ。まず参加の意思決定も、徹底的に内定者自身に考えさせている。