Column 自ら決定し実行することが 内発的動機づけを高める鍵 ―脳科学から見る自己学習―
自ら学ぶ意欲と大きな関係がある、内発的動機づけ。これは、賞罰とは関係なく好奇心や関心によってもたらされる動機づけのことをいう。しかし、この内発的動機づけも、金銭的報酬が絡むことで大きな影響を受けるという研究がある。金銭的報酬は、自ら学ぼうとする意欲にどのような影響を与えるのか。脳科学の観点から内発的動機づけについて研究している玉川大学脳科学研究所 松元 健二 教授に聞いた。
自発性が損なわれるアンダーマイニング効果
脳科学は、心理学で示唆されたことを脳の観点から改めて研究するという特性を持つ。1990年代後半以降、MRI(機能的磁気共鳴画像法)などの医療機器が発達し、ヒトの脳の活動について詳細なデータが取れるようになり、脳科学は急速に進展をとげている。しかし、1970年代から内発的動機づけについての研究が行われてきた心理学と比べると、脳科学における研究の歴史は浅く、明らかになっていないことが多いといわざるを得ないのが現状だ。人のやる気と脳の活動の関係はまだ十分に解明されていないが、そのヒントとなる研究結果を出すことができた。それが、金銭的報酬が課題への自発的取り組み(内発的動機)を低下させることを証明する脳活動の様子を捉えた研究だ。課題の成績に応じて得られる金銭的報酬は、課題そのものに対するやる気(動機づけ)を高めると一般的にいわれている。その一方で、金銭的報酬は、課題への自発的取り組み(内発的動機づけ)を低下させる「アンダーマイニング効果」(図表1)を引き起こす要因になることも知られている。