企業事例②NTTデータ 一層の予防活動へシフト。心身の健康状態を前のめりにキャッチ
心の健康状態は見えにくく、組織のアプローチは概して治療が必要になってからのリアクションになりやすい。そんなメンタルヘルスケアにおいて、治療までには至らない(境界領域)社員を積極的にすくい上げようとしているのが、大手システムインテグレータのNTTデータだ。受け身ではなく前のめりに危険信号を捉える予防策は、いかにして構築されているのか。具体的な施策を聞いた。
一次予防活動への転換
エンジニアの長時間労働が課題のひとつとされるIT業界。それがメンタルヘルス不全に直結するただ1つの要因ではないが、長時間労働による疲労とストレスが、働く人の心身に不調をきたす可能性を高めることは間違いない。
IT業界大手のシステムインテグレータであるNTTデータでは、人財の健康第一を目標に掲げ、長時間労働の削減および社員の健康維持・増進に注力している。同社は1990年代終わり頃から、専門医等を招いて産業保健スタッフ体制を築くとともに、セルフケア、ラインケアや職場改善、コミュニケーション施策などの視点でさまざまな取り組みを行ってきた(図表1)。まさに“あの手この手”で不調者に対処してきたが、2011年度からは、それまでの活動をベースにさらなる“予防的観点”に取り組みのポイントをシフト。若年層を中心に、異動・昇格時など大きな環境変化が伴う場面での健康予防に重点を置いている。「以前の健康管理体制では、投薬も含めた取り組みを行い、不調が顕在化し始めた社員を中心にフォローしていました。しかし、本来は不調に陥る前、つまり治療が必要になる前にフォローできるのが一番良いはずです。潜在的にメンタルヘルスの不調の兆しを持っている社員をいち早く見つけ、より多くの社員を見られるようにするのが、予防中心の体制にシフトした一番の目的です」
こう語るのは、人事部・健康推進室の村井敏行課長だ。
健康推進室は、2010年度にスタートした新しい組織である。それまで要フォロー社員などへの個人ケアを担っていた「ヘルスケアセンタ」と、職場に出向いての組織的健康管理を担っていた「職場保健グループ」を統合し、医療の専門スタッフを1つの組織内にまとめたという。同時期に会社組織がカンパニー制に移行したことに伴い、カンパニー単位で社員と医療スタッフが密接した保健体制の確立を狙ったもので、産業医が4名、保健師が15名常駐する手厚い健康管理体制である。