巻頭インタビュー 私の人材教育論 判断の軸を持つ個人と組織こそが変化に対応できる
普段の生活で我々が見る地図は、もはや紙媒体を通してではなく、カーナビやスマートフォンといったデジタル媒体のものがほとんどではないだろうか。このことは、地図業界を巡る変化の激しさを意味している。この激しいビジネス環境の変化に対応するために、髙山善司社長が社長就任の翌2009年に発表した長期経営構想が「ZENRIN GROWTH PLAN 2013」。そこに託されたのは、地図の制作会社から、「知・時空間情報」の総合プロバイダーへと転身するために、組織をどうまとめ、個々のモチベーションを高めていくのか――。5年、10年先を見据えた戦略と人づくりを聞いた。
地図メーカーから、情報のプロバイダーへ
――2008年に社長に就任され、その翌年、長期経営構想「ZENRIN GROWTHPLAN 2013」(以下、「ZGP2013」)を策定されました。どのような内容なのでしょうか?
髙山
これは、“地図の制作会社”という従来の位置づけから、“あらゆる情報を収集・管理して提供する「知・時空間情報」の総合プロバイダー”へと転身するための成長戦略です。2009年から2013年までの5年間に、「既存事業の構造改革」、「新規事業の基盤確立」、「グローバル事業の再検証」を実現することで、10年後の2019年には、連結売上高1000億円をめざすためのプロセスと位置づけています。
――「ZGP2013」を策定された目的は何でしょうか?
髙山
当社の場合、創業以来、「情報を集めて紙の地図や地図のデータベース(DB)をつくり、それを販売する」という自己完結型の事業を長年続けてきました。
それが近年は、カーナビ、携帯電話、インターネットなど、さまざまな媒体に対して、地図情報を提供するようになりました。
ご存知のようにこれらの業界は、たとえば、スマートフォンのような新しいタイプの端末が登場したり、Facebookなどの新しいサービスが登場したりと、常に変化しています。そうした変化の激しい業界に対応できる体制を整えておかなければ、企業として存続し続けるのは難しいといえます。
以前から3年単位の中期経営計画はありましたが、それは、既存の事業展開の中で業績をどれだけ伸ばすかという観点からつくられていたものでした。しかし、市場の環境が大きく変わりつつある今、5~10年という長期的な視点で、事業の在り方そのものを見直す必要があると考えたのです。
変化が激しく、1年先のことさえわからない時代に5年も10年も先を見ることができるのかという声もあるでしょう。ですが、むしろ、変化が激しいからこそ、時代を先読みし、仮説に基づいた戦略を立てることが大切なのです。
基軸となる戦略を持てば、それが判断の拠りどころになり、臨機応変な対応も可能になるのです。
目標とアクションを連動させモチベーションを高める
――「ZGP 2013」では、2009年から2011年の最初の3年間を「転換期」として位置づけ、「組織戦略」を主要施策のひとつに掲げています。「組織戦略」では、「モチベーションマネジメント」、「プロセスマネジメント」、「コミュニケーションマネジメント」を課題として挙げられていますが、具体的には、どのような取り組みを行っておられるのでしょうか。
髙山
1つは、経営目標と個人の業務とのつながりを明確にすることで、従業員のモチベーションを高める仕組みづくりです。
これまで当社では、数値目標はあっても、それが各人のアクションプランとは結びついていませんでした。
そこで、「ZGP2013」では、経営目標を個人のアクションプランにまで落とし込めるようにし、仕事の成果を数値で示せるようにしようと考えました。また、各人の仕事が、部署、あるいは、会社全体の中でどの部分に貢献しているかも見えるような仕組みを検討しています。
自分の仕事の成果が数字で測れれば、従業員のモチベーションは高まりますし、自分の仕事の位置づけがわかれば、その仕事をする意義も理解できます。そうなれば、企業理念や行動指針を口うるさくいわずとも、会社全体のベクトルが合うようになるはずです。