企業事例① 日本アイ・ビー・エム 緻密な教育と徹底的なロールプレイングで営業力強化
優秀な営業担当を輩出する企業として名高い日本アイ・ビー・エム。同社では、営業職として必要な能力をグローバル基準で定め、全世界共通のプログラムを実施している。厳しい試験にパスしなければ、営業職になれないという同社。ロールプレイングを用いながら階層別に求める能力を細分化し、営業職の専門能力を高め続ける。そうした同社の営業人材育成方法を紹介する。
めざすのは“卓越した営業力”
「当社では、理想の営業職のあるべき姿として、Sales Eminence(卓越した営業力)というキーワードを掲げています。これは、当社のCEO、V. M.ロメッティが3年ほど前にメッセージとして発信した言葉ですが、当社はそれ以前から“営業職の専門性”を高めることを大切に、人材を育成してきました」
自社がめざす営業職の姿をそう説明するのは、日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)でセールスラーニング&コンピテンシー担当 部長を務める齋藤守弘氏だ。米国に本社を構えるIBMの100%子会社として、情報システムに関する製品、サービスを提供する同社は、優秀な営業人材を多数輩出していることで知られる。「Sales Eminenceは、全世界の営業職がめざすべき理想の姿。要するに、IBMが提供するソリューションの深い専門性を軸に、幅広くお客様の業界を理解して価値を提案できるT字型のような人材です(図表)」
この理想を実現するため、同社では、新入社員から管理職に至るまで、階層別に求められる能力を体系化。各階層に応じた全世界共通プログラムと営業部門が提供するプログラムの2本柱で教育をしている。営業に必要な能力を明らかにしたうえで、緻密に教育計画が立てられている。中でも営業職が全員一度は通過することになる新入社員向けの研修は、IBMの営業人材を形づくる“原点”ともいうべきカリキュラムだ。いかなる研修なのか。次で見ていきたい。
世界基準で認定適性を見定める卒業試験
同社で新入社員向けの営業教育を担当する人事 ラーニング セールス研修担当 部長 奈良清隆氏は、同カリキュラムについてこう話す。「当社で行っている営業職の研修は、Global Sales School(以下、GSS)とよばれるもの。全世界共通のカリキュラムであるため、言語が異なるだけでどこの国のIBMで受講しても全く同じ内容です。これは半世紀以上続く、IBMの伝統ある営業職向けの教育です」
GSSは、入社後1カ月間行われる全職種共通研修の後に、“営業職候補生”に対して行われる職種別の専門カリキュラムで、講義とロールプレイングを基軸とした厳しい研修だ。「GSSで学ぶことは大きく2つ。営業にはArtとScienceがあると教えています。Artとは個々人が持っている感性やセンス。たとえば、お客様とのアイスブレイクでお客様に対する関心を自分の言葉で表現するといったセンスのことです。これは研修のロールプレイングで試されます。ScienceとはIBMの経験則を科学的に体系化した営業活動の技法のことを指しています。この2つを徹底して身につけていきます」
新入社員は、5月、6月、7月に、それぞれ2週間の研修を受講する。1週間目はScienceに当たる集合研修で強化。顧客知識やOpen QuestionとClose Questionといったコミュニケーションスキル、商談を進める話の進め方などを学ぶ。また、教室での一方的な座学とは異なり、チーム単位で知識の理解を深め、切磋琢磨させることで、チームワークの養成も兼ねている。