Opinion② 「 挑戦し、振り返り、楽しみながら」経験から学び、成長する方法
市場環境の変化、顧客ニーズの多様化などに伴い、営業担当者の仕事は高度化している。その中で、営業人材はどのように学び、成長することができるのか。これまで各業界の営業人材の「熟達化」について研究してきた神戸大学大学院の松尾睦氏に、営業人材の成長の道筋と、それを支援する方法について聞いた。
市場が不透明な時代の営業アプローチとは
市場の不確実性が高まる中、営業の手法もさまざまに変化している。主な営業行動様式を分析すると、大きく次の2つに分けられる。訪問件数や人間関係を重視する「伝統志向」の営業と、顧客ニーズに基づく提案を行う「問題解決志向」の営業である(図表1)。
近年、市場環境の変化や顧客ニーズの多様化に伴い、問題解決志向の営業により重点が置かれるようになった。過去の調査で、2タイプの営業行動様式が財務業績に及ぼす影響を分析したところ、問題解決志向の営業がより高い業績を上げていることが明らかになった。提案やコンサルティング的手法の重要性が増していることは確かだろう。
しかし同調査で顧客満足度と市場不確実性との関係を見てみると、市場の不確実性が高い業界で高い顧客満足を得るには、問題解決志向に加え、伝統志向のアプローチが必要だという結果が出ている※1。
その理由は、営業担当者が顧客との信頼関係を築き、本音を聞けるようにならない限り、顧客のニーズを満たす提案ができないからだ。
つまり現代のように先行き不透明な時代においては、伝統志向・問題解決志向の両方の営業アプローチが重要で、いかに顧客との関係性を構築し、相手の課題を把握し、解決策を提供するかが高い顧客満足のカギを握っている。
加えて、伝統志向の営業アプローチといっても、企業のコンプライアンスやセキュリティ上の理由で、従来のやり方が通用しない場面も多々ある。営業のアプローチは、市場環境や相手により変化するのだ。
営業人材は、こうした時代や環境の変化を敏感に察知し、自分の経験から得た知識を再構成していくことが必要になる。そのためには、営業担当として常に成長し続けることが何より大切だといえるだろう。
熟達に必要な経験
では営業人材として成長するにはどうしたらよいのか。
人材の成長過程を示した「ドレイファスモデル」は、人が技能を習得・極める過程を「初心者→見習い→一人前→中堅→熟達者」という5段階で示している。
熟達者とは特定領域で優れた業績を示す人のことで、組織内にわずか5~10%しかいないといわれている。私がこれまでに自動車販売や不動産販売の営業担当者を対象に行った調査をもとに、営業の熟達者が持つスキルを図表2にまとめた。
これらのスキルと、販売業績との関係性が見られたのは、経験10年目以降であった。つまり、スキルを自分のものにするには10年以上の経験が必要なのである。