連載 酒井穣のちょっぴり経営学 第16回 オペレーション・マネジメントの基礎
効率的な業務の実行(オペレーション)について、また、企業のバリューチェーンの中での人事の位置づけについて、考えを巡らせたことはあるだろうか。企業のビジネスにとって、また組織運営にとって、バリューチェーンの(全体)最適化は欠かせない視点である。その視点について、概略を紹介する。
オペレーション(operation)という言葉には「手術、作戦、操作」などさまざまな意味がありますが、経営学においてオペレーションとは「業務の実行」を意味します。ですからMBAにおいてオペレーション・マネジメントといえば、それは「効率的な業務の実行」を考えることです。その言葉自体が正確な日本語として翻訳されていないことからも明らかな通り、日本が長年苦手としてきた分野であり、一般に理解が進んでいるとはいい難いところです。
基本的な考え方:部分最適 vs. 全体最適
まず、以下の問題に答えてみてください。この問題は、オペレーションの世界で名著といわれる『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット/著)の中で、小説の1シーンとして出てくる話を整えたものです。
企業経営はもちろん、現場のマネジャーとして部下を管理する場合も、オペレーションという意味では、これと同じ問題を扱うことになります。特定の部署だけ優れていても会社としてはダメですし、特定の人材だけが高い業績を出していても部署としてはダメです。この問題を考える際には、以下の視点が重要になります。
① チームで歩くのが一番遅い子どもが、チームの山頂への到着時刻を決める
② 一番遅い子どもは常に同じ子どもではなく、時間とともに変化する
③ 人間は助け合うことができる
ここで、それぞれの子どもが歩く速度を、それぞれ別々に高めようとする活動を「部分最適」といい、他方、解答として示したように、その時々で、チーム全体の足を引っ張る存在(ボトルネック)に着目し、その子どもの速度を高めるようにみんなで協力する活動を、特に「全体最適」といいます。
オペレーションの問題の多くは、どのようにして“部分最適の罠”にとらわれず、全体最適を考えることができるかにかかっています。ついつい、それぞれの子どもの歩く速度を高めることに集中しがち、ということです。とはいえ、現実の企業経営においては部分最適“も”重要であることは付け加えておきたいです。