Opinion 1 ヨコのつながり×戦略的トップダウンのハイブリッド型組織で組織能力を高める
インターネットの台頭という大きな外部環境の変化によって、企業を取り巻く経営環境はより一層厳しさを増した。しかし一方で、伝統的な日本企業はそれに十分に対応できていない。それは、対応できるだけの組織能力を持っていないからだ。そして、組織活性化とは、この組織能力を高めることである。日本企業における組織活性化の重要性とその方法について、慶應義塾大学ビジネス・スクールの高木晴夫教授に聞いた。
組織能力低下と成果主義の弊害
現在、日本企業はグローバルビジネスの競争相手に対して劣位にある。生き残るためには、新しいアイデアを生む活力が必要だ。しかし現在の日本企業はそれを阻む閉塞感に覆われている。
なぜこのような状況に陥ってしまったのだろうか。
議論の本題に入る前に、ここで扱う「日本企業」について確認しておきたい。本稿でいう「日本企業」とは、日本の高度経済成長を支えてきた、歴史ある大企業のことをさす。この日本企業が今、グローバル企業におくれを取っているのはなぜか。それは、変化に対応する組織能力が低いからである。組織能力とは、次の3つから構成される。
① 洞察力
② 判断力
③ 実行力
このうち、とりわけ日本企業が劣っているのが、①洞察力と②判断力——世の中の動きを洞察して、意思決定し判断を下す能力である。もともと日本企業はオペレーション能力が高いといわれてきたが、これは裏を返せば、オペレーション以前の予測や意思決定などの面が弱いことを意味する。そして近年特に、この弱みが顕著になり、グローバル企業にますます引き離されてしまった。この背景には、成果主義の導入とその弊害がある。「決められた仕事以外はしない社員が増えた」「協力し合う姿勢がなくなった」といった問題が起きるようになったのと時を同じくして、組織能力の低下という問題が表面化してきたのである。
インターネットの台頭による外部環境の変化
日本企業の組織能力がどの程度劣っているかを体現するエピソードがある。電子機器を製造・販売する某企業の研修施設の宿泊棟には、インターネット環境が整備されていなかった。インターネット機器のメーカーであるにもかかわらず、である。
これが意味するのは、この企業の研修提供者、ひいては経営層が、現状に対してなんら問題意識を持っていないということだ。些細なことのようだが、情報孤島で社員が研修期間中に泊するのを問題視しないこと自体が、日本企業の現状を象徴しているのではないか。
情報から取り残されることは、企業の外部環境の変化を考えた時に、多大な影響を及ぼす。インターネットの台頭によって、企業の外部環境は大きく変化したからだ。最も大きな変化は“速さ”である。これには2つの側面があり、1つは情報伝播の速度である。ある出来事や人の意見、好みなどの“情報”が、ある地域から別の地域に伝わるスピードが格段に速まった。
2つめは、情報に人が反応する速度。情報がリリースされた時、それに反応する人も、より広範囲により速く増えることになった。“ モノの変化”と“、人の反応という変化”の2つが掛け合わさって、倍々のスピードで変化が起きるようになったのだ。評判が良ければ、あっという間に大量に売れ、悪ければ、即座にブームが去る、といった具合だ。
外部環境がこのような特性を持つようになると、商品やサービスのライフサイクルが短くなる。企業は、時間をかけてしっかり設計し、高品質の商品を作っていては間に合わない。短い時間で、ニーズに対応する商品を、品質も維持しながらかつ大量に提供しなくてはならないのだ。
さらに近年は、インターネットにより精緻なマーケティングが可能になった。ウェブサイトのアクセス履歴から、もしくはSNSへの書き込みやクーポン利用から、いつ誰が何をどこで購入したかといった個人の特性や好みに関する詳細なマーケティングデータを容易に収集することができる。これは企業にとって大きな強みになる。だが、こうした変化への対応を得意とする日本企業の経営層はどれだけいるだろうか。外部環境の変化に対して対応能力が低く、組織が停滞しているのが、日本の大企業の現状と課題だといえよう。