KEYWORD5 グローバル人材育成 全球化時代へ本気で対処せよ! ―手垢にまみれてきた「グローバル人材論」を超えて―
グローバル組織と人材開発のコンサルタントとして20年の経験と実績を持ち、1997 年にアメリカ経営出版社の名門、Jossey-Bass社からTranscultural Management(邦訳『多文化時代のグローバル経営』)という経営書を出し、当時から多文化、多国籍、多言語の組織経営と人材育成の課題を訴えてきた著者が今、再び日本企業の経営者と人材開発育成者へ提言する。
「グローバルマインドセット」を学び、実践する時代へ
本原稿を書き上げる直前、首都圏のホテル会場に世界14カ国から集まった人事および人材開発に携わるスタッフ100 名の前で、私は挨拶の直後にグローバル組織開発と人材育成の世界的権威であり、なおかつ、私のメンターであり、友人でもあるスティーブン・ラインスミス※1氏の名著、
“A Manager’s guide to Globalization”の冒頭の一節を紹介した。Many a manager’s eyes glaze over as the CEO announces that the initiative for the coming year is “globalization.” And virtually all managers are initially at a loss for concepts, methods, and plans whenc onfronted with the task of “making our people and culture more global.”それは組織のグローバル化対応と人材育成に注力している日本の大手メーカーから依頼を受けて聞かれたセッションだった。
―― CEOの「グローバル化推進」に多くのマネジャーはいぶかり、ほとんど全てのマネジャーは社員と社風をグローバル化するという課題に直面した時に、どうすればいいのか当惑してしまう、というこの引用箇所は、その場に集まった参加者の気持ちを正直に代弁するものでもあった。
もちろん、私の意図は「グローバル化推進」を揶揄するものではない。組織のグローバル化とグローバル人材を推進するために全体像とそのカギとなる要件を理解してもらいたかったのだ。
組織開発のコンサルタントとしても豊富な経験を持つラインスミス氏は、組織のグローバル化を推進するためには、戦略や組織構造、企業文化、社員と3つの全てのレベルでの変革が必要であり、特にグローバルマインドセットを持つことから始めなければならないと述べている。実は、今ではかなり一般化した「グローバルマインドセット」という概念を20 年前に体系的に解説していたのは他ならぬラインスミス氏である。
同じく、私のメンターでもあり、ピーター・ドラッカーと50 年もの親交があった国際経営の先達である小林薫氏※2はラインスミス氏の定義する「グローバルマインドセット」を次のように訳されている※3。1.より大きな構図へのビッグ・ピクチャー(大局観)を持ち、2.マネジャーとしてよりもリーダーとして変革を履行し、3.人生と社会を相互に矛盾する諸勢力の均衡として受け入れ、4.予期せざることを取り扱う際には、構造よりもプロセスに信と重きを置き、5.好機としての変化に沿って流れ、驚きや曖昧さにも気楽に対応し、6.自分自身と他人に対していつもオープンであることを心がける。
小林先生は以上をもって、「(この)特性の保持者が本当のグローバル・マネジャーなのである」、と結論づけている。
実は、私も15 年前、米国で出版した拙著の中で自民族中心主義から、地球中心主義へ、単一文化から多文化、そして文化を超克するマインドセットが重要であると述べていた(図表1)。時代は、まさにグローバルマインドセットを学ぶだけでなく実践する時期に突入している。