論壇② エグゼクティブから始める日本企業の変革 ~理念を語れるエグゼクティブをつくる~
絶えず変化し、政治・経済、あらゆる面で将来が描きにくくなってきている現代。
それでもエグゼクティブは、自社を変革していくために将来を描き、“志/生き様”を周囲に熱く語る力が必要だと著者はいう。そこで本稿では、聖域化されたエグゼクティブ教育に切り込むために、そのニーズと効果について明言したうえで、何をすべきかを提唱する。
1 はじめに
私が責任者を務めるグロービス・エグゼクティブ・スクールでは、毎年1,000 名を超える企業のエグゼクティブ(基本、企業の部長層以上)の皆さんが切磋琢磨している。
この層の方々が自覚を持ち自己変革を遂げ変わることが、日本企業、日本社会の再生に最も必要なことだという信念を持って取り組んでいる。ただし、エグゼクティブ教育は、企業のトップ層を対象とすることからも難易度が高く、過去なかなか手の着け辛かった、聖域化されてきた領域であった。
特に、社内で反対意見として出される意見としてよく伺うのが次の2つである:「今さらエグゼクティブに教育する必要があるのか?」「 すぐに成果が出るのか?」
本稿では、このような疑念に対して私なりの答えを提示しつつ、今、なぜ、エグゼクティブ教育が必要なのか、そこでなすべきことは何なのか、それはどのような内容なのかを述べてみたい。
2 聖域化されてきたエグゼクティブ教育
上記の2つの問いに答えよう。エグゼクティブに教育は必要があるのか?
ミドル向けの研修の事後アンケートに必ず見かけるのが「同じ内容を上にやってほしい」という要望や「学んだ内容を活かそうとしても、上が理解していないのではないか」という不満だ。上司であるエグゼクティブに教育を望み、変わってほしいと願っている部下は少なからず存在する。ミドルを教育する会社は、ミドルアップによる会社の変革をめざしているはずだ。しかし、真に変革を期待するのであれば、ミドルのパワーを受け止め、社内に展開する助言役、媒介役となるエグゼクティブが必要だ。もちろん、経験豊かなエグゼクティブを変革に巻き込むのは必ずしも簡単ではない。しかしだからといってエグゼクティブを敬遠していては、逆に変革の芽をつぶす対抗勢力になりかねない。エグゼクティブの教育は、変革を進めるうえで不可欠なのである。
エグゼクティブに教育して、すぐに成果は出るのか?
何を成果と捉えるかもあるが、エグゼクティブにまず求められるのはエグゼクティブとしての“自覚”だ。そのために重要なのは、「振り返り」を実施することである。振り返ることで、学びから得た気づきを整理し、そこを踏まえての自分の行動変革を約束することで、自覚の滋養とともに、確かな変化が起きる。もちろんそこに至る過程には難所は存在する。しかし、どんな難所があろうが、必要なことには挑戦しなければならないのだ。