企業事例① 日産自動車 日産の効果的組織開発を支える「器」と「魂」
V字回復から10年。日産自動車の再生、組織開発の秘密には諸説ある。
なかでも注目されるのが、「CFT」(クロス・ファンクショナル・チーム)と「V-up」だ。
お題目に終わることなく、組織の壁、トップとボトムの壁、社内外の壁を取り払い、さらに会社の空気まで一新させた、その秘訣は、いったいどこにあるのだろうか?
活動の手法と、それを推進し続ける絶妙な仕掛けについて取材した。
“危機感”が社員の心をひとつに
日産自動車を見事に起死回生へと導き、躍進させた「CFT( クロス・ファンクショナル・チーム)」。さまざまな分野のエースが、部門や職務の壁を超えて一堂に会し、会社が直面する問題に大胆にメスを入れるプロジェクトチームである。
日産リバイバルプランの骨組みも、7つのCFTによる提案がベースとなった。1999 年にスタートしたこの試みに続き、2001年には独自の問題解決・組織開発手法「V-upプログラム」が始動している。
それからおよそ10 年。ますます進化を続ける同社だが、その要因は、短期的な「組織改革」にとどまらない「組織開発」―― CFT、V-up等の取り組みが可能にした、長期的かつ大胆なチャレンジにこそある。日産自動車V-up 推進・改善支援チーム松本恒一部長に聞いた。「実は、今の部署に配属される前の11年間、私は外から当社の改革を見ていたんです。新卒で日産に入社しましたが、その後、他社に籍を置いていましたので。2 年前、久しぶりに戻ったところ、予想を超えた会社の変貌ぶりに驚きました」
社内の空気を一変させ、組織開発を推進したもの―― それは“危機感の共有”ではなかったか、と松本氏。「1999 年のあの危機によって、社員の意識が大きく変わったのだと思います。新しいトップのリーダーシップのもと、心をひとつにして難局を乗り切るしかないんだ、という決意が生まれ、全体最適の機運が広がったのでは。これが“魂”となって、CFTやV-upといった“器”とうまく結びついたのでしょう」―― 魂と器はそれぞれ、“ソフト”と“ハード”と捉えることができる。
周知のように1999 年当時3月、日産は2兆円あまりの有利子債務を抱え、ルノーとアライアンスし、同社の傘下に入っている。この時、社長兼最高経営責任者CEOカルロス ゴーン氏がめざしたのは、会社をCFTに象徴される“クロスファンクショナルな組織”だった。
「V-up」は人を集める旗印のようなもの――
組織に横串を通し、大胆に再構成する仕組みCFTとは、具体的にどのようなものなのか。「CFTでは、毎年10名程度のごく優秀な人材が『パイロット』として選抜され、それぞれの事業領域における問題と改善の機会発見を命じられます。活動は年単位で行われ、最終的にトップに改善提案を行う。ここで提案された内容は、現在も会社運営の柱として機能しています」
CFTの活動からさらにすそ野を広げ、クロスファンクショナルな働き方を企業文化にまで昇華させようという試みが「V-up」だ。