Opinion Column ピーター・センゲの「組織開発」
米経営学者ピーター・センゲが確立した「学習する組織」。“ 学習する組織化”も、参考にしたい組織開発の1つの方向性である。
センゲは、組織が「学習する組織」となっていくために、どんな要素が必要だと説いているのだろうか。
「ハード」と「ソフト」という視点で、センゲの同志である小田理一郎氏が解説する。
ピーター・センゲの提唱する「学習する組織」とは、自分たちの力を伸ばし続け、“継続的に”成果を出す組織である。組織が「学習する組織」でなくても、いいアイデアや人脈に巡り会い、一度の成功を収めることはある。だが、果たしてその後も継続的に成功していけるだろうか……。プロ野球のチームがある試合で劇的な勝ち方をしても、シーズンを通じての成績が振るわなければダメなのと同様に、ビジネスにおける組織も、長期にわたって成果を出していかなければならない。そのために不可欠なのが、「環境変化への適応」である。
学習する組織は、外的環境の変化をいち早く察知し、自らを新しい環境に適応させる“適応性”に大変優れている。組織開発によって“継続的に成果を出す組織”の実現を望むなら、「学習する組織」への変革は必然の選択だといえるだろう。
では、学習する組織を“構造”というハード面で見ると、どんな特徴があるのだろうか。
ハード=自立した組織のネットワーク
組織はその規模や地域、業界、戦略などによって異なるデザインが必要なので、一つの望ましい形が存在するわけではない。そこで、あらゆる組織で「学習する組織」の考え方を応用するためにセンゲが着目したのが“チーム”という基本単位だ。彼はそれを“目的を達成するために、互いが互いを必要とする人たちの集まり”と定義している。職場のみならず、プロジェクトなど部署や会社の枠を超えていてもチームが存在する。
ここでセンゲが強調するのは、学習する組織の中で、全ての人やチームは「周囲との関係性の中に存在している」ということである。これを説明するために、センゲが講演などでよく引用するのが、品質管理の父・エドワーズ・デミング氏のエピソードだ。デミング氏はコンサルティングで企業に行くと、まず始めに居並ぶ役員たちに自身の仕事を紹介してもらうが、相手が「私は生産部門の○○です」「私はマーケティングを担当している○○です」と答えると、すぐにこう切り返す。「それはあなたの仕事ではない。誰から何を引き継ぎ、誰のために何をするのか、つまり周囲との関係性を含めて仕事の定義ができていなければ自身の仕事について話していることにならない」と。
個人だけではなくチームも、他の関係者たちと連携していなければならない。センゲは生態系という表現を使い、“多様な役割を持ったチームが有機的につながった生態系ができること”が理想だと語っている。生態系の一部だけ着目して改善しても、その成果は限定的なものでしかない。生態系全体がバランス良く機能してこそ、成果を出すことができる。
よって最初に、学習する組織に決まった形はないと申し上げたが、“それぞれが自律・分散したチームが有機的につながり、全体として機能するネットワーク”というのが、共通するイメージといえるだろう。
ソフト=3つの能力と深い学習サイクル
続いては、ソフト面から見た「学習する組織」。“学習”と聞くと、業界や財務の知識、技術や販売スキルなどを思い浮かべる方が多いかもしれないが、センゲはこうした部分の能力開発について、著書の中でほとんど言及していない。テクニカルな知識やスキルは表面的な問題でしかないからだ。
では、学習する組織にはどんな力が必要か。それについてピーター・センゲは3つの力(柱)を掲げている(図表1)。