Opinion 2 組織を俯瞰し、 有効な手法を組み合わせ 最適なアプローチで臨む ~結果を出す組織・人材開発のプロとは~
日本企業で“普通の社員”としてキャリアをスタートしながら、リーバイス、ナイキといったグローバル企業本社や各国で組織開発を実践し、期待された成果を上げてきた増田弥生氏に、その豊富な経験と実績を踏まえ、組織開発のあるべき姿や、組織開発のプロが持つべき能力などについて聞いた。
グローバル企業での組織開発を経験
もともと私が人材マネジメントの重要性に目覚めたきっかけは、最初に勤めたリコーで米国企業との合弁会社のマネジメントに携わったことだった。合弁会社の事業は失敗に終わったが、その時に、企業の持続的成功には戦略的人材マネジメントが不可欠と、気づいたのである。
その後、縁あってリーバイスに転職し、組織開発や人材開発のプロフェッショナルが身につけるべきスキルを一通り習得した。そして、組織開発とリーダーシップ開発の専門家として、カントリー(日本)、リージョン(アジア太平洋地域)、グローバル(本社)の各層で経験を積むことができた。次に勤めたナイキでは、アジア太平洋地域の人事責任者として、組織開発を含めた人事機能全てを総括した。両社での経験を踏まえ、組織開発とはいかなるものであり、組織開発を行ううえで何が重要なのかについて述べてみたい。
組織を俯瞰する視点がカギ
組織開発を行っていくには、特定の施策よりもまず「マインドセットと視点」を持つことが重要である。効果的な人材開発は、その人の一部の能力をどうこうしようというよりも、その人全体のパフォーマンスが向上するように、多面的なアプローチで可能になる。たとえば海外で活躍できる人材を育てるのであれば、ただ語学力だけを習得させるのではなく、異文化理解やリーダーシップ、プレゼンテーション力の向上など、海外での活躍に必要な能力を総合的に開発するだろう。組織開発も同様で、組織全体をより強く、健全に保つためにどうすれば良いか、という視点とマインドセットが不可欠なのである。
特に大事なのが組織の「健全さ」だ。米国本社から世界数十カ国の子会社を見ていると、同じビジョンや価値観を持ち、評価制度も業績管理システムも同じなのに、利益を上げ続ける組織と、うまく回っていない組織の両方がある。その差が生じる要因の多くが健全さである。
健全さとは、ビジョンや価値観に基づき、社員が職場で自由闊達かつ主体的に、高い目線で仕事をしているか。また、組織と自分の成長をともに実感しているか、などである。そうした健全さを保つためには、仕組みや仕掛けが必要になる。それがサーベイや目標設定、業務評価、ミーティング、ビジョンづくり、研修、リーダー育成、360 度ツールなどのさまざまな施策なのだが、これらは組織開発のための道具(ツール)に過ぎない。
組織開発とは、いうなれば、組織のミッション・ビジョン・バリューの観点から組織全体を俯瞰して観察し、組織の強み弱みを把握し、組織が健全な状態になるために取り組むべきテーマを見つけ、それを実践することである。組織を俯瞰すると、コミュニケーションやプロセス、リーダーの質、組織文化、能力など、さまざまな課題が見えてくる。それぞれの課題に対して、相手や状況に応じて、前述のさまざまなツールをそのつど組み合わせてアプローチしていくのである。