巻頭インタビュー 私の人材教育論 右脳左脳のバランスのとれた柔軟で主体的な人材こそ長期的な安全を守れる
鉄道や道路の信号システム等、交通インフラを社会に提供する日本信号。
“不易流行”のフェールセーフ技術により“交通の安全を守る”という経営理念の実現を追求する同社の求める人材像とその育成について、降旗洋平社長に聞いた。
長期的な安全を守る企業の不易流行とは
――2008年に社長に就任された際、2009年から2020年までの長期経営計画「Vision-2020 3E」を発表されました。この計画のめざすところを教えてください。
降旗
この「Vision-2020 3E」では、これまで取り組んできた品質向上・高付加価値製品の開発を継続するとともに、そこで得た利益を成長分野である海外事業や新規事業に投資し、事業拡大サイクルを構築することをめざしています。
また、今は少子化・高齢化、地球規模での資源・環境問題など、これまでの経験が通用するとは限らない環境変化が起きてきている時代です。ですからその大きな変化に迅速に対応できる事業体制を構築すると同時に、グループ企業の自立化、意思決定の迅速化、管理精度の向上などを図り、企業価値向上を目標として掲げています。そして、これらの実現に向けては、“3E”――Economy(経済)、Environment(環境)、Energy(エネルギー)を重視する取り組みを行っていく方針です。
――3年程度の中期経営計画を立てる企業が多い中、12年もの長期経営計画を策定された理由を教えてください。
降籏
日本信号は、鉄道や道路の信号システムを提供している、いわば社会インフラをつくっている会社です。社会インフラというのはそう簡単に変わるものではなく、それを長期にわたって安全、安定的に提供していくことが当社の役割です。したがって、経営も長期的な視点で見ることが必要なのです。
これまでも当社では、6年単位の長期経営計画を策定していました。しかしながら、以前の長期経営計画の時代と比較すると、現在の混沌とした時代にはもっと長期的な視野が必要と考えました。そこで、2倍の12年間として、きりのいい2020年としたわけです。
私が社長に就任した2008年は、リーマンショックが起こり、世界的な景気低迷に見舞われた時期でした。行く先が見えないという理由から、長期経営計画をつくらない企業も多かった。しかし、私は、そういう時代だからこそ、遠いところを見て目標を定め、それを灯台のように見据えて進むことが大切だと判断し、この長期経営計画を策定することにしたのです。
――社会インフラを提供する企業にとって、特に重要なことは何ですか?
降旗
まさに、長期にわたって守る「安全」です。その意味で日本信号は、1990年代から目覚しく成長してきた、IT企業の対極にある会社といえます。
IT業界では、半年、1年の単位で開発競争をしていますよね。商品サイクルも短く、パソコンや携帯電話は、数年経てば古い機種になってしまう。
一方、日本信号の扱う製品は、研究開発だけで2年ほどかかります。その後、スペックを決め、実証実験にまた1年くらいかけ、さらに、顧客企業の下でフィールド試験を1年間実施する。人工的な過酷環境試験の他に、実際に四季の気候にさらされないと、製品の完全な安全性は確認できないのです。その結果を踏まえて、基本設計を修正します。つまり、新しい技術が実用化されるまでに、最低でも3年、通常で5年はかかります。それだけ、安全には心を配り、費用もかけている。“我々は、人の命を預かっている”という責任があるからです。
そして、この「安全」を守る思想は、時代や国が違っても、変わることはありません。ただし、それをどう実現するかという部分においては、時代とともに変化します。かつて人が手作業で物理的に制御していたものを今では、コンピュータで制御しています。新しい技術を利用・開発しながら、安全を実現していくことが求められているのです。