人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 第5回 「12人の怒れる男」 1957年、アメリカ 監督:シドニー・ルメット
1957年に製作されたアメリカ映画『12人の怒れる男』は、密室劇の最高傑作として今も語り継がれる名作である。18歳の少年が、父親を殺したとして第一級殺人に問われる。そして裁判の後、12人の陪審員が缶詰になって有罪か無罪かを決めることになる。判断は有罪ですぐにまとまるかに思われた。しかし、一人の男が確証がないとして態度を保留する。
ここから、その男の粘り強い検証と説得によって判断が逆転するまでの過程が、ほぼ台詞だけによって進行するのである。そして半日かけて、時に衝突しながら議論を重ねる過程で、12人それぞれの人格、生活、生きてきた人生、そして抱えている問題などが浮き彫りになる。
この映画はまた、粘り強い議論によってより良い結論を出そうとする、アメリカの民主主義が集約されていると評価されてきた。建築家であるその男は、いかにもインテリらしく、相手の背景を見極めながら論理の弱点を突き、主張を揺さぶっていく。
実際、映画の中でも「こうやって議論するところがアメリカの強みなんだ」というような台詞があって、自国の民主主義への強い自負が表現されている。建国の背景からして多民族国家であるアメリカは、価値観も多様で、議論しなければ何事も決まらなかった。