CASE.1 光文社「VERY」編集部 イノベーティブな現場とは 読者とブリジストンとのコラボ:イノベーションは「間」で生まれる
2011年6月の発売以来大ヒットとなっている新型電動アシスト自転車「HYDEE.B」(ハイディ・ビー)。女性誌「VERY」とブリヂストンサイクルという異業種コラボの成果だ。仕掛け人は、「VERY」編集長の今尾朝子氏。編集長就任直後から本誌売り上げアップを実現した今尾氏の普段の仕事から、コラボの裏側を聞き、イノベーターの素質を考える。
背中で見せる編集長
「 『VERY』編集長になれ、といわれた瞬間は頭が真っ白になりました」気恥ずかしそうに語る表情にも、控えめな口調にも、辣腕編集長のイメージはない。今尾朝子氏、2007年9月から『VERY』編集長を務めている。“雑誌愛”に目覚めたのは10 代の頃。ファッション誌に夢中になり、発売日のたび書店へ走った。大学卒業後はライターとして『CLASSY.』で活躍。経験を積むうちにライターよりも、編集業がやってみたいと思うようになり、光文社に入社。『VERY』編集部に編集者として配属された。配属まもなく『ANEVERY(別冊ヴェリィ)』を創刊し成功させるなど目覚ましい実績を上げた彼女は、『STORY』創刊メンバーとして抜擢される。
創刊からの5年間は、充実そのもの。誌名からコンセプト、使う紙に至るまで中心メンバーとして考え、頭の中は読者層である40 代女性のことばかり。そんな時、『VERY』編集長という突然の辞令がおりたのだ。「まさか自分が指名されるとは。編集長の器じゃない、と思っていましたし、『STORY』が大好きでした」。困惑する彼女に上司は告げた。「仕事ぶりを部下に見せろ」。今尾氏も、「私はぐいぐい引っ張るタイプではないので、仕事でわかってもらうしかないと思っていました」と語る。
その言葉通り、最初の半年間は巻頭特集を自ら担当した。当時は、「多忙過ぎて記憶がない」、と笑うが、編集長業務をこなしたうえで、企画や取材、編集作業をこなすのは並大抵ではできない。「 死にもの狂いで特集をつくっていくうちに、みんなも私もお互いのことがわかってきます。この企画は絶対○○さんが得意だから彼女に振ろう、といった具合に、適材適所なキャスティングができるようになっていきました」
読者に会って会って会う!
部員の気持ちをつかむのにそう時間はかからなかった。編集長交代に伴い、大胆に刷新した2007年12月号。表紙に踊る特集見出しは、『カッコイイ“お母さん”は止まらない!』。リニューアル第1号は予想以上の売れ行きだった。そして、2008年5月号、表紙に『基盤がある女性は、強く、優しく、美しい』をキャッチに据える。このメッセージが読者の共感を得て、売り上げ部数は前年の130%アップを達成。新しい読者を獲得できた!と、部員たちの今尾氏に対する信頼も厚くなった。
この成功は、読者層の気持ちをあらゆる手段で理解しようと努めたから。ライター陣は、おしゃれな現役主婦で固め、自身は通勤ルートを変えて幼稚園の前を通ってママたちの様子を日々観察。ファッションリーダー的主婦にヒアリングを重ねた。