調査データファイル 第103回 『平成21年度 能力開発基本調査報告書』より 教育訓練と経営戦略の修正が企業利益の源泉になる
短期間で効果が表れにくい教育訓練は、不況対策の名目として、まずその経費を削減された。しかし、その対策の下で日本の企業の利益と成長が停滞している現実を見れば、今行わなければならないのは教育費の削減ではなく経営戦略の大胆な修正・変更のほうであろう。能力開発や人材教育の問題点をデータから浮き彫りにし企業の持続的成長に結びつく教育訓練のあり方を考える。
1.不況対策として削減される教育訓練費
前回紹介した元気なものづくり中小企業は、時間にゆとりのある不況期を利用して従業員の教育訓練を充実させていたが、近年の日本全体の傾向は逆であり、不況期に教育訓練費を削減しているというのが実態である。
厚生労働省『平成21年度能力開発基本調査報告書』によれば、企業が教育訓練に支出した費用の労働者1人当たり平均額が大幅に減少している。Off-JTは1.3万円で、前年度より1.2万円も減って約2分の1に縮小。また、自己啓発支援に支出した費用は4千円で、前年度比で半減している。
教育訓練費の削減は、実施した事業所が減少したことも影響している。Off-JTの実施状況を見ると、正社員に関しては、実施した事業所の割合が68.5%と、前年度と比較して8.5ポイントの減少になっている。また、パートや派遣社員といった正社員以外に対しては33.2%で、前年度比で6.4ポイントのマイナスとなっている。さらに、自己啓発に対する支援も減少。正社員の自己啓発に対して「支援を行っている」事業所の割合は66.5%にとどまり、前年度よりも13.1ポイント減少。正社員以外も41.3%と、前年度比で12.5ポイント低下している。
このように、リーマンショックによる不況が顕在化した平成21年度、企業は不況対策の一環として教育訓練費を削減している。この結果から、短期間で効果が表れにくい教育訓練は、不況対策として真っ先に矛先を向けられやすいことを露呈した。
2.従業員が高く評価するOff-JTの有用性と内容
では、効果がすぐには表れにくい傾向のある教育訓練に対して、従業員はどのように思っているのであろうか。
仕事に直結したOJTよりも効果がすぐには表れにくいOff-JTであるが、実は従業員はその有用性を高く評価している。受講したOff-JTに対する有用性を、正社員は半数以上が「役に立った」(51.1%)と回答しており、「どちらかというと役に立った」(44.4%)を加えると、95.5%が肯定的な回答をしている。また、正社員以外も、「役に立った」(57.9%)という回答率が正社員よりも高く、「どちらかというと役に立った」(34.5%)を加えると、92.4%が肯定的な回答をしている。
このように、仕事に直結するとは限らないOff-JTでも、従業員の大半は有用性を認めている。よほど的外れな教育訓練内容でもない限り、何らかの形で仕事に役立っているのである。しかも、正社員以外の従業員も、同じように有用性を認めている。技術革新や新しいビジネスモデルが頻繁に登場する最近の経営環境下では、従来からの仕事のやり方を学ぶことが中心となるOJTだけでは、変化に対応することは難しい。Off-JTなどの多様な教育訓練の機会を設ける必要がある。