酒井穣のちょっぴり経営学 第9回 ファイナンス1 ファイナンスってなんだ?
第7回、第8回と会計について考えてきたが、今回からは、ファイナンスを取り上げる。簡単ではない概念だが、理解できれば、事業活動の意味を正しく判断できるようになる。今回登場する数式も、よくよく読めば中学生レベルのもの。落ち着いて読み通してみてほしい。
どこが違う?会計とファイナンス
まずは図表に示した、会計とファイナンスの違いを見てください。簡単にいえば、会計とは業務改善のために「過去のお金を扱う」業務であり、ファイナンスとは投資活動として「未来のお金を扱う」業務です。ですが、そもそも論として、「未来」なんて誰にもわからないですよね?そこで出てくるのが「期待値」という考え方。期待値を使って未来のお金を考えるとは「その投資をすると確率的にどれぐらいのお金が戻ってくるのか」を考えることです。たとえば、宝くじを買う場合。1,000円で買うと、宝くじの期待値は47%と一般的にいわれていますから、470円が戻ってくる(確率的には530円の損をする)ということです。では競馬はというと75%。1,000円使えば750円が戻ってくる。宝くじより競馬のほうが期待値は高いのです。ここで重要なのが、特定のビジネスから得られるリターン(収益)は、ビジネスを切り盛りする自分たち次第ということです(収益率はビジネスによって異なる)。ビジネスに投資家のお金を集める(または予算の承認を得る)ためには、投資家(または予算権限を持っている人)に、期待される収益を期待値として説明する必要があります。
最重要の概念=お金の時間的価値
期待値を明らかにし、未来のお金を考えるためには、未来のお金の価値を、現在の価値に直して考えないとなりません。これを「お金の時間的価値(TimeValueofMoney)」といい、ファイナンスの世界でバイブルと呼ばれるどの教科書も、大概はこの説明から始まります。本質は単純です。お金の価値は時間によって変化し、同じお金でも、今日のお金のほうが、明日のお金よりも価値があるということです。これはどういうことで、なぜ今日のお金のほうが価値があるのか――3つの理由とともに説明します。
●第1の理由:インフレーション
基本的に世界の経済はインフレしていきます。以前は100円で買えた缶ジュースも110円になり、そして120円になりました。いずれは150円、200円となっていくでしょう。今は100円で買えるものも、将来は200円出さないと買えないならば、将来の100円は今の半分の価値しかないことになります。