ベンチャー列伝 第20回 「他力本願」を奨励して多様な個を活かす強い組織に
他者の能力を活かす「他力本願解決王決定戦」
ラクーンは、全国のアパレル、雑貨メーカーや地方小売店が、ネットで仕入れできるBtoBのサイト「スーパーデリバリー」を運営している。創業者の代表取締役社長・小方功氏は、「人を最大の経営資源と考え、人を熟知し、人の能力や個性を使いこなすことが経営の中心」と人材活用のあり方を語る。同社の経営理念は「ニーズ(存在理由)」という言葉に集約される。社会全体にとって「ないと困る」と思われる存在であり続けることをめざしている。会社が社会に必要とされる存在となれば、そこで働く人も努力を惜しまなくなるからだという。
「人は皆、異なる個性を持って生まれてきています。それをうまく活かす仕事が、“天職”。それは自分だけで見つけられるものではありません。実は個性は、他人のほうがよく知っていることが多い。スポーツ界で選手がいいコーチに出会うことでいい成績が残せるように、個性や能力は、第三者によって見出され、磨かれることがよくあるものなんです」(小方氏、以下同)
会社という組織で働くには、お互いの個性や能力を活かし、皆で得た勝利に対して成功実感を持つことが欠かせない。その時に大事なのは、一緒に働いている仲間の得意分野を理解することである。そのために導入したのが「他力本願解決王決定戦」だ。
「以前は、1人ですべて手柄を立てなくてはいけないと考え、わからないことを聞くべき人に聞かなかったり、自分より得意な人がいるのに仕事を抱え込んだりする人が見受けられました。そこで、一緒に働く仲間の個性を理解して、それを使いこなしていくことができる人を評価すべきだという考えの下、今回の制度を導入したのです」
他者の力を借りるには相手をよく知ることから
日々寄せられる顧客の要望に、最短の道のりで解決策を提示するためには、担当者が1人で抱え込むのではなく、上司や先輩に相談する、他部署のスペシャリストと協力するなど、社内のリソースを最大限に活用することが大切だ。そこで、いかに他人の力を最大限に活用しながら、迅速かつ最善の解決案を顧客に提示することができたかを評価するのが「他力本願解決王決定戦」。提示された解決案を社内の審査委員会で評価し、最も優れた解決案を提示した男女各1名に解決キング・クイーンの称号と特別有給休暇5日と、賞金を授与するというものである。
解決クイーンの事例を紹介しよう。ある顧客から、Web上で請求書を見られるようにして欲しいという要望があった。ラクーンのシステムは35人ほどいるエンジニアが朝から晩まで何年もかけて作った仕組みである。Web上で請求書を見られるようにするという要望は、簡単そうだが実は大変な改定を要する。外部に発注すれば数千万円は費用がかかってしまう。そこで小方氏は、この案件をシステムとは関係のないIR担当の女性A氏に任せた。
通常、これを技術関係の部署に渡すと、技術的に難しいといった「できない理由」を並べ、結果、要望は棚上げされていく。ところがA氏の場合は、「請求書をWeb上で見ることができたほうが便利」「紙代も節約できる」とシンプルにアウトプットイメージを持った。他の部門だからこそ、新しい目でその仕事を見ることができる。そのうえで、どのようにしたら実現できるかを探し始めていった。彼女が入社10年ほどのベテラン社員だということもあり、社内の人間の誰が何を得意とするのかを熟知していたことも大きい。A氏自身は必ずしもアイデアマンではないが、社内でアイデアを持っている人間を素早く見つけ出すことができたのだ。
その結果、数千万円かかったかもしれないシステム上の変更が、数人のメンバーの数日間の尽力によって出来上がった。この時、最初に評価されるのはA氏であるという点が、この制度のポイントである。