連載 ID designer Yoshikoが行く 第61回 グレートにインテグレート!?ASTD2012のトレンドとは
「テクノロジーは進化し、ラーニングは遅れていく。それでいいのか?」(ASTDプレジデント トニー・ビンガム)
初夏の恒例行事、ASTD(米国人材開発機構)国際会議に参加するため、はるばる18時間かけてやってきたのはコロラド州デンバー。会場近くのホテルにチェックインし、21階の部屋から眺めると、高層ビル群の彼方にはロッキー山脈が白く輝き、カンファレンスセンターのガラスの壁面には巨大なブルー・ベアの彫刻が仁王立ち。そしてメインストリートの16 番街モールにはメルヘンな馬車がのどかに往来している。
大都会と大自然が同居するこのマイルハイ・シティ(標高約1マイルの街)に、世界70カ国から9000人が集った今年の会議では、ここ数年、議論の的になったソーシャルネットワークやスマホなどの目新しいキーワードこそなかったけれど、その街並み同様、伝統と革新双方の魅力を統合した人材育成のイノベーションのアイデアに溢れていて、そろそろITによる変革から成熟の時期に移ったのかな、という印象。300を越える講演の中から、まずは基調講演のキーフレーズを紹介しよう。
冒頭の言葉は、昨年同様、m(モバイル)ラーニングについて語り始めたトニーのオープニングスピーチでの一言。「また、その話?」という冷めた空気が一瞬会場に満ちたけれど、そんなことにはお構いなしで、「2年もすればジェネレーションY(1980年~2000年生まれの年代)が労働力の50%以上を占め、10年後には人間よりモバイルの数が多くなり、机に座って学ぶ光景はなくなってしまう。そんな世界がすぐそこまで来ている今……」と熱く語り続け、「モバイル・ネイティブたちをクリエイティブでグレートな人材にするために、まず人材育成のプロたちがグレートになるべきだ」と喝っ! mラーニングがめざすのは、学びと業務をインテグレート(統合)したグレート(偉大な)な組織づくりだと、韻を踏んだフレーズをやたらに連呼するのだが、さてその「グレート」って、何?
アムンゼンが成功したのはなぜか? 彼は強固な規律と、経験に学ぶ謙虚さを併せ持つ『グレートなリーダー』だったからさ」(ジム・コリンズ)
トニーとバトンタッチしたのが、『ビジョナリー・カンパニー』で有名な米国の経営学者ジム・コリンズ。変化の激しい時代に必要なのは、他者と比べて優秀なグッド・リーダーではなく、環境の激変にも左右されないグレート・リーダーであるという。ただの良い人じゃダメなのね?