TOPIC 2 『人材教育』読者無料セミナーレポート今、人材開発担当者はどうあるべきか? ~変化し続ける世界と向き合い、未来をつくる~
グローバル人事・人材育成の仕組みづくり、育成の連鎖の修復、個人の内発的動機づけ、ソーシャルメディアの台頭をはじめとする学びの環境変化……。人事・人材開発担当者を取り巻く問題はさまざまに変化している。そのような中で、2012年4月23日に行われた本セミナーは、同じ人事・人材開発担当者という立場の読者が問題を共有し、対話や内省を通して考えを深めるための場として設けられた。当日は、約100名近くの読者が参加し、パネルディスカッション、分科会、そして参加者によるワールドカフェと盛りだくさんの内容で開催された。当日の様子を、ダイジェストで紹介する。
【パネルディスカッション】今、人材開発担当者はどうあるべきか?
守島 基博 氏
一橋大学大学院 商学研究科 教授
井上 直樹 氏
花王 人材開発部門統括部長
山田 理 氏
サイボウズ 副社長 兼 事業支援本部長
パネルディスカッションは、守島氏と実務家2名による現状整理と課題共有という形で進められた。「これまで人事・人材開発担当者は、研修や制度など、多種多様な人材育成施策を実施してきました。しかし、日本企業における人材育成のほとんどの部分が現場で行われているのが実態です。OJTで人材を育てる文化が非常に強いというのは、日本企業の特徴であり、強みでもあります。ところがこの現場の育成力が今、弱体化しているのではないでしょうか」(守島氏、以下同)
守島氏のこの問いには、参加者の多くが同意した。その背景には、成果主義による、過程・プロセスの軽視、人員構成のバラつきなど複数の要因がある。加えて、そもそも現場依存の育成には、本質的に限界がある。現場の育成というのは、基本的に短期的、または周期的なもので、長期的な人材戦略は考えられないためだ。
そこで人材開発担当者は何を考えなくてはいけないか。守島氏は、現場を再構築すること、長期的に必要なコア人材確保のために、戦略的な人材育成・開発のグランドプランをつくることの2つだと述べた。「現場の再構築のためには、“組織開発担当者としての人材開発担当者”という役割が求められると考えます。また、長期的な人材育成戦略弱体化しているのではないでしょうか」(守島氏、以下同)
守島氏のこの問いには、参加者の多くが同意した。その背景には、成果主義による、過程・プロセスの軽視、人員構成のバラつきなど複数の要因がある。加えて、そもそも現場依存の育成には、本質的に限界がある。現場の育成というのは、基本的に短期的、または周期的なもので、長期的な人材戦略は考えられないためだ。
そこで人材開発担当者は何を考えなくてはいけないか。守島氏は、現場を再構築すること、長期的に必要なコア人材確保のために、戦略的な人材育成・開発のグランドプランをつくることの2つだと述べた。「現場の再構築のためには、“組織開発担当者としての人材開発担当者”という役割が求められると考えます。また、長期的な人材育成戦略
チェンジ&チャレンジで自走する組織をつくる
まず登壇したのは、花王の人材開発部門統括部長、井上直樹氏。従業員数5924名(連結対象会社合計3万4743名)規模の同社が抱える人事・人材開発の課題は何か。「大きな問題意識は2つあります。1つは、今こそこの先人事がどうあるべきなのかを考える時期なのではないかということ。当社もこの15年間、特に人事制度や年金制度、研修など、ハード面を一生懸命変えてきました。でも社員の意識はどうか。会社は強くなったか。これらを総括する時期にあると考えています。
2点目は、では将来に向かって何をすれば良いかという点です。この10年間企業は成熟化し、社員は保守化し、さほど頑張らなくても安定するようになった。そうなると、海外に出てチャレンジする社員がどれだけいるか。もう一度組織としての挑戦と変革に焦点を合わせることが必要です」(井上氏、以下同)
「自走できる組織」の前提には、会社のミッション・ビジョンを全社員が共有することが重要だ。「人事が細かなハード面を整備する時代は終わったと思います。むしろ大切なのは、ミッション、ビジョン、バリューを創り上げ、啓蒙することに尽きるのではないでしょうか。戦略や方向性に基づき、現場の裁量がきく人事の仕組みをつくることが、我々の仕事だと考えています」
とはいえ、方針のみで現場がバラバラになってはいけない。人事が次にやるべきことは、業務を標準化し、きちんとPDCAを回していくことだ。花王では、2年に1回社員意識調査を行い、現状の客観的な測定・分析を行っている。「社員自身が『勉強しなくてはいけないんだ』と考える環境を会社がつくることが重要です。そのために人事・人材開発担当者は“お膳立て”をする。当社では手挙げ式のビジネススキル研修を設け、年に1回、能力開発育成シートで目標設定をしてもらいます。これらの取り組みを通して、自ら学び、考える組織をつくりたい。ひいては、それが組織の力につながるだろうと考えています」
人材マネジメントの重要性を認識させる
サイボウズは、1997年創業、平均年齢31.9歳の若い組織。副社長の山田理氏が、同社の取り組みと「自走する組織」の関係性を語った。「『自走する組織』に必要なものは、①方向性、②主体性、③協調性の3つだと思います。チームには必ず存在意義があります。自分たちのチームの目的と方向性をまず共有することが大事。ただ、1人でできることは限られます。個人も部署も役割を持って協力し合うことで価値が提供できる。それが組織にとって重要だと考えます」(山田氏、以下同)
具体的に同社では、行動指針に基づく目標設定、「問題解決メソッド」という独自の合宿研修、全員参加で月1回経営状況を把握する機会などを設けている。 「人事が人を育てるわけではない、というのが私の実感です。基本的に社員は、現場の上司や先輩と、自らが学んでいかなくてはいけない。ということは、現場のマネジャーにどれだけ頑張ってもらえるかが大事なのではないでしょうか」
山田氏がこう考えるようになったのは、改めてピーター・F・ドラッカーの『マネジメント』を再読したことがきっかけ。ドラッカーは、「マネジメント」には、プロジェクトと人材、2つの意味が含まれるとしている。しかし、普段の職場ではさほど明確に区別されていない。そこで山田氏は部長クラスの社員と、「あなたの部の人材マネジメントの課題は何ですか」というテーマで、相談し合う時間を設けるようにした。「現場のマネジャーに、マネジメントには仕事面だけではなく育成や動機づけといった人材育成の面も含まれているということをしっかり認識してもらうこと。それが、自走する組織をつくっていくうえで重要なポイントなのではないでしょうか」