TOPIC 1 一流とのプロジェクトで入社間もない新人を鍛える ~丹青社「人づくりプロジェクトSHELF制作研修」レポート~
学生から社会人になったばかりの新入社員に、いきなり一流のプロと実際にモノをつくるプロジェクトを経験させる会社がある。商業施設や、博物館・美術館、イベントなどの「空間づくり」を行う丹青社だ。「人づくりプロジェクトSHELF制作研修」と名づけられたその取り組みで、新人たちは何をどう苦労し、学びを得るのか。
人をつくるモノづくりプロジェクト
2011年9月27日~ 10月5日、ある展覧会が東京某所で行われた。展示されているのは、写真のような特殊な形をしたシェルフ(棚)。どれも洗練された形をしており、身近なインテリアショップで購入できそうなものではない。
展覧会の主催者は、商業施設や博物館・美術館、イベントなどの「空間づくり」を行う丹青社だ。
どの棚も、芦沢啓治氏や長岡勉氏、寺田尚樹氏など、世界で活躍する一流のデザイナーと、一流の職人による作品だが、これらが新入社員研修の成果物というのだから驚きである。
展覧会の名は「人づくりプロジェクト SHELF展」。同社が2009 年から行っているプロジェクト型新入社員研修「人づくりプロジェクトSHELF 制作研修」(以下SHELF研修)の成果物をまとめて展示したものだという。
同社では2005 年頃から、新入社員が電話台などの什器をつくる研修を行ってきた。なぜ、モノをつくるプロジェクト型の研修を行うようになったのか。背景にある問題意識について、経営企画統括部 人材企画室室長の松村磨氏は語る。
「 7、8年ほど前、私が技術部門に所属していた頃、あるクレームの処理を担当しました。現場を見てみると、守らなくてはならない品質へのこだわりが薄れているなと感じました。当社のベテラン社員が現場をずっと見ていたにもかかわらずそれは、初歩的なミスの発生につながっていた。当社の経営者はこのことに強い危機感を抱き、改めて、品質・時間・コストといった、我々の仕事の基礎を、最初の段階からやり直さなければならない、と感じたのです」
この危機感は、松村氏が人材企画室に異動したのち、教育施策に結実する。その1つが「SHELF研修」だ。
品質・時間・コストといった「仕事の基礎」は、新入社員の頃から知っておくべきであり、しかも身をもって学ばなくては意味がない――そうした考えから、同社の普段の仕事に近い“プロジェクト型”の研修を行うようになったのである。
この研修での新人の役割は、連絡、調整、進行管理や軌道修正を行うプロジェクトマネジャーといったところ。デザイナーが考えたコンセプトを、協力会社の金物職人や木工職人に伝え、形づくっていけるよう、主体的に手伝う。同社の営業・デザイン・制作各部門の社員が担う役割そのものを、入社早々体験させるものだ。
一流の専門家と棚をつくる8週間
具体的には、デザイナー数名と、新入社員がチームとなり、GW明けから6月末の約8週間で、それぞれ別の形の棚を制作していく。デザイナー1名(または1デザイン事務所)に対し新入社員1~4名=1チーム。2011年は新入社員が総勢9名で5チームが制作し、2012年は17名で9チームである。チーム分けは人材企画室が決める。
成果物である棚には、
・ 基本的には金属と木材、両方を組み合わせる
・ 大きさは幅2500㎜、高さ2000㎜まで
などの与件(条件)が決められている。
SHELF研修の流れは以下の通り。ビジネスマナーを含めた人事部主催の導入研修が終わる4月末からスタートする。
● デザインプレゼン(4月末)
まず、デザイナーたちがどんな思いからどんな棚を作りたいのか、デザインコンセプトのプレゼンが行われ、新入社員たちはそれを集中して聞く。その後、人材企画室によるチーム分け発表。チームとなった新入社員とデザイナーは顔を合わせ、最初の打合せ日を決める。
● 制作期間(GW明け~6月末)