読者提言 論壇 「信頼・貢献バリュー」による活力ある組織づくり
読者諸氏が所属する組織では、組織や人材の活力を十分に引き出せているといえるだろうか?組織や人材の活力を重要な経営テーマと捉え、企業はさまざまな取り組みを行うものの、空回りしているケースも少なくないようだ。本稿では、活性化施策に求められる「信頼・貢献バリュー」に基づく施策立案の考え方を提示する。
空回りする活力ある組織づくり施策
先般筆者らが実施したセミナーで、参加者である陸運業界大手A社の幹部から次のような話をお聞きした。「我が社・我が業界は、上司・先輩が下の者を叱って育てる文化がありました。しかし現在では、それでは社員が委縮してしまい社員が育ちません。そこで『ほめる文化』に転換しようということで、各社員が良い仕事をした者に対してGood Jobポイントというものを発行し、獲得ポイントに応じて表彰しています」
A社に限らず近年多くの企業では、社員のやる気や自発性を引き出すことに焦点を当てた活性化施策に力を注いできた。しかし、厳しい経営環境のもと、個人に働きかける新しい取り組みを現場第一線に根づかせることは簡単なことではない。A社のGood Jobポイント制度は、ほめる文化を形成することで社員の積極性・活力・成長につなげようという施策だが、一方の叱って育てる文化も事業の成長や業務遂行に有効だったからこそ長年にわたって培われてきた価値観である。よって、こうした取り組みは新旧の価値観闘争なのである。
ただ、長年慣れ親しんだ行動のほうが強い慣性力があるがゆえ、仕事や業績が振るわないケースが続いたら、「ほめる文化」が「叱る文化」に駆逐されないか、「もっとほめなさい!」「ほめ方が悪い!」などと叱られないだろうか、と笑い話のような心配が出てくるのだ。
実際、この手の取り組みは、初期の目的を果たせずに形骸化してしまうことが多い。
一方、現場に目を転じてみると、経営サイドからの要請と現場の実情の狭間にいる第一線のマネジャーからはもっと悲痛な声が聞こえてくる。新興国の台頭・円高・原油高などの厳しい環境の中で、現場が取り組むべき課題はますます複雑化・高度化している。その反面、人員数はすでに絞られているためメンバーは担当業務で精一杯で、新しい流れをつくり出すような革新課題に腰を据えて取り組める状況にない。それでも、課題の解決には部下一人ひとりの頑張りが頼りなので、マネジャーは部下に対しさまざまな働きかけを行うが、意図や想いがうまく伝わらず、なかなか行動に現れずにイライラ……マネジャーはこうしたジレンマを抱え込み、さんざん徒労・疲弊感を味わった末に、あきらめ感に行き着く。
あきらめ感とは、「やる気とか意欲といった個人の内面を変化させるのは困難なので、そこにはあえて立ち入らず、業務遂行上の指導までと割り切る」というものだ。部下にはいろいろいいたいことはあるが、人間関係が損なわれ職場がギクシャクすることを恐れ、深追いしないというわけである。
組織を動かす見えない力
こうなると、もはや革新とかチャレンジといったダイナミックさは期待できない。第一線のマネジャーは多かれ少なかれ、同じような悩みを抱えているのではないだろうか。
このように企業環境や職場状況が難しい局面で、組織や人材の活力を向上させるには何が大切だろうか。「組織を動かす見えない力」とは、社会学者の佐藤郁哉氏らが著書の中で遣った言葉であるが、一般には企業文化や経営理念、行動規範や社風といったものを指す。企業のホームページ等でも頻繁にお目にかかる「○○ウェイ」「○○スピリット」といったものが代表例だが、ここでは明文化された理念や規範だけでなく、もっと根源的な、文字通りの「見えない力」について考えたい。
読者諸氏にはこんな経験はないだろうか。信頼のおける仲間から少々の難題を持ちかけられた。折悪く忙しい時と重なりとても対応する余裕はないのだが、この人が困っているのだからと、何とかやり繰りして応えてあげようと行動を起こす――。仕事の上でも私生活でも、一度や二度は経験があるのではないだろうか。