Opinion Column 2 NPOカタリバの活動から見る“教える”が持つ力
大学生が高校生へ自分の体験談を語るというキャリア教育を行い、注目されているNPOがある。大学生が高校生のキャリア教育をサポートすることは、教える側と教えられる側の双方にどのような学習効果をもたらすのか。日々、若者と向き合い続けている同団体の事業部長を務める今村亮氏に、取り組みを通して見えてきた現在の若者の傾向と“教える”ことで鍛えられる力についてお話いただいた。
学校に社会を運ぶカタリバという授業
私が所属するNPOカタリバは、2001年に任意団体として設立して以来、「学校に社会を運ぶ活動」をキーワードに高校生のためのキャリア学習プログラムの提供を続けてきた。
現在、全国9拠点で展開しており、専従職員45 名、学生リーダー約200名、そして学生ボランティア約4500 名によって活動が支えられている。
代表的な活動内容は、「カタリ場事業」という高校生向けのキャリア学習支援だ。大学生や専門学校生のボランティアスタッフが高校の授業に訪問し、自身の体験談を語ったり、高校生と対話する場をつくる。高校生に自己理解を深め、将来に希望を抱いてほしいという願いを込めた120分のプログラムだ。
高校生をカタリバのターゲットとしている理由は、高校時代の進路選択が、初めて「どう生きるか」という決断を迫られるタイミングだからだ。高校卒業後には大学や専門学校へ進学する者、就職する者など、人によって大きく分岐していく。同級生たちと近い環境で過ごせる最後の時期が高校時代と捉えられるだろう。
カタリバの活動のポイントは大学生に案内役を任せているという点。
当団体のようなNPOの活動にボランティアとして積極的に参画する大学生は、さぞかし意欲に溢れ、リーダーシップのある“優等生”にちがいないと思われるかもしれない。
確かにそうした若者も存在することは事実だが、当団体の学生ボランティアのほとんどが、学校で特別目立っているわけではなく、どこにでもいるいわゆる「普通の学生」だ。
カタリバの主な取り組みは、そうした普通の大学生が自分の経験を紙芝居にまとめて高校生に語るというもの。語られる内容は、「受験での挫折体験」、「自分が今、本気で打ち込んでいること」、「高校時代の後悔」といったエピソードで、必ずしも“特別な若者による特別な経験”である必要はない。
年齢が近い大学生ならではの等身大の経験だから高校生の心に響き、話を素直に受け入れることができる。親や教師といった身近な大人たちからのアドバイスは素直に受け入れることができない生徒でも、利害関係のない“先輩”の言葉として発せられると、“うざい”どころか“、共感”や“憧れ”にすらなる。
実際にカタリバを高校の授業で実施すると、初めは見知らぬ人たちからの働きかけに照れたり、身構えたりしていた高校生が、次第に大学生の話に耳を傾け、それが次第に身を乗り出して話を聞くようになっていく……。