Opinion 2 「教える」チャンスを提供し育成の風土を根づかせる
人を教育することは、自分が成長するチャンス。そんな当たり前のことが、職場では実感しにくくなっている。「教える」ことで得られる効用を再確認し、再び企業成長の武器にするためには、継続して教える機会を提供し、この機会を逃さないよう職場全体で支える、育成の風土づくりが必要だ。
経験の競い合いの中で「教える」ことがチャンスに
最近、若手社員が鍛えられたり、修羅場や失敗を経験できる“現場”が少なくなっている。さらに、経営のグローバル化が進み、現場はどんどん海外へと流出してしまうだろう。しかし、仕事ができるようになるためには経験の積み重ねが不可欠だ。経験を争う競争は、国境を越えてすでに始まっている。
いかに現場に身を置くかを争う中で、「教える」機会を得ることは、極めて貴重な現場経験といえるだろう。教えることは負荷がかかるし思い通りにならないことも多い。だからこそ成長のチャンスであり、大きな充実感を得られるものだと感じている。「できるように教えなければならない」という責任の中で、何を、どう教えればいいか試行錯誤しながら、自分自身が新たに学んだり、知識を整理したりする契機になるからだ。
教育の機会は誰もが必ず得られるものではない。これからの競争を勝ち抜いていくために、若手社員は積極的に「教える」機会を活かして経験を積んだほうがいい。そして企業は、なるべく早く、なるべく多くの社員に教育のチャンスを与えるべきだ。
時間がない・自信がない失われた育成の風土
「教える」という行為は、指導される側に限らず、指導する側や組織全体にもプラスの効果を及ぼす(図表1)。しかし今、職場では、「教え・教わる」関係が希薄になってしまっている。
年功制度が主流だったかつての企業では、先輩社員が後輩の育成・指導を行うのは自然な光景だったが、今はそうした関係が築きにくくなっており、先輩から学んだことを後輩に伝えるという育成の連鎖のようなものが失われてしまった職場も多い。
理由はいくつか挙げられるが、ひとつは、教える立場になる社員が抱える不安である。私が仕事でかかわってきた企業には、3 年目程度の社員を教育係に指名している企業がいくつかあるが、教育係になる社員の多くに共通しているのは、「時間がない」「自信がない」という不安だ。
3 年程度の経験を積んだ社員は、ちょうど自分の仕事も多く抱えるようになる段階にあり、新人を指導している時間をつくれないと考えてしまう。しかも、仕事の正確性とスピードへの要求が高まる近年の経営環境の中では、時間と労力を奪われて自分の仕事のパフォーマンスまで落としてしまう懸念がある。
また、中堅、ベテラン社員ほどの知識や技術は持ち合わせていないため、しっかりと教えられないのではないか――。そんな不安によって、教えるという行為をネガティブに捉えてしまう傾向がある。
育成の連鎖が途切れたもうひとつの理由は、職場の年齢構成の偏りだ。