特集 教える経験が人を育てる若手を伸ばす 「教える力」
成長の起爆剤“教える”で若手を育てる
新人指導に不安を抱く若手社員
バブル崩壊後の採用抑制で、後輩を教えたことのある先輩社員が減っている。さらに、急速な経営環境の変化で仕事に求められる正確性やスピードが増し、教える側に新人育成に積極的にかかわる余裕がなくなってしまっているといわれている。
そうした中、職場には「まじめで素直だが、いわれたことしかやらない・できない」受け身傾向の新入社員が配属され、上司・先輩には、これまで以上に意識して新人とかかわり、働きかけることが求められている。
しかし昨年、日本能率協会マネジメントセンターが実施した採用・教育担当者へのアンケートでは、45.1%が「配属後の現場教育に問題あり」と回答しており、職場における教育のあり方が、大きな課題となっている(図表1)。
さらに、企業の若手社員教育をサポートするオピニオン2の関根雅泰氏(ラーンウェル代表、P34)によると、新人の育成担当を期待される若手社員の多くが「自信がない」「時間がない」いう不安を抱き“、教える”という行為をネガティブに捉えてしまう傾向があるという。
こうした中、今号で紹介する事例企業は、いずれも「教える」という役割を早いうちから意識させ、実際に役割を与えることで、教える側の若手社員の成長と、職場の育成力の向上につなげていた。
今号では、改めて「教える」ことが持つ人材育成上の意義を考察していく。
教えることで得られる成長のチャンス
教えることでなぜ人は成長するのか。関根氏は取材の中で「教えなければいけない立場に追い込まれることで、自分自身が新たに学んだり、考えを整理したりする契機となる」と述べ、指導役に選ばれた若手社員は、会社から期待をかけられ、成長のチャンスを得ていると指摘した。
住友商事の西條浩史氏は、「曖昧なまま仕事を進めていたことに気づく」、「指導を受けていた頃の自分を客観的に捉え直す」ことを指導員経験から得られる気づきの例として挙げている。
関根氏はさらに、新人育成を、指導側の成長の機会として積極的に活用すべきだという。たとえば、ある企業では、指導役が“互いの新人を紹介する”という名目で他部署との関係づくりを行い、自らの人脈構築や調整力の習得、部門を超えた協働につなげている。
事例各社とも新入社員の指導経験が、教える側の若手社員の成長にもつながることを期待し、意図的に役割を課していた。
このように教える行為を通じて教える側が成長するということは多くの人が同意するところだろう。だが、現実には教えることは非常に難しく、若手社員をはじめ、不安を感じる人も多い。
そこで、まずは江戸時代の教育観から、現在の企業教育にも通じる、教えるヒントを探った。