TOPIC 2 ~グローバルサプライチェーン・マネジメント~ 知識体系の共有が生む国際競争力
供給網の安定的な確保、事業継続計画策定といった視点から、サプライチェーン・マネジメント(SCM)の重要性が高まっている。とりわけグローバル・サプライチェーン体制の整備に取り組む企業が増加しつつあるものの、日本では、これまで具体的な運用のための共通言語を持たなかった。そこで今回、日本生産性本部によりSCMの国際資格が日本でも認定可能に。その概要と日本における可能性を紹介する。
サプライチェーン・マネジメントの重要性
3月11日に起きた東日本大地震による影響は、地域住民の生活や企業活動を支えるサプライチェーン(供給網)に甚大な影響を及ぼした。過去の経験を踏まえたBCP(事業継続計画)の重要性が認知されており、多くの組織体でBCPが策定されている。サプライチェーン・マネジメント(以下、SCM)の重要性も言及されている中で、今回の震災は、より一層SCMの重要性の認識を高め、多くの課題を提示した。具体的には、SCMにおけるリスクマネジメント、そして、GSCM(グローバル・サプライチェーン・マネジメント)体制の構築である。GSCM体制の構築には多くの企業が着手しているが、その具体的な運用において確立された共通言語を持たないため、多大なコミュニケーションロスによる生産性の低下を招くケースが散見される。そのような課題への処方箋として、APICS(The Association for Operations Management Advancing productivity, Innovation andCompetitive Success)が認定するSCMの国際資格がある。
SCMの提唱団体であるAPICSの役割
APICSは1957年に設立され、米国内でSCMの概念を提唱した専門家団体である。現在、全米に250支部、世界36カ国に44もの提携機関を持つ、SCM分野の草分け的な機関となっている。主要な事業として、1.会員の組織化・会員向けサービス提供とそのための調査研究、2.サプライチェーン専門家向け教育・教材の開発、3.サプライチェーン専門家の認定、の3つが挙げられる。APICSは、職業別組合組織にも似たサプライチェーン従事者自身の集まりで、常にサプライチェーン・マネジャーの知識体系のアップデートや、専門家としての地位向上を支援している。本部職員90名に対して600名のボランティアで活動がまかなわれていることからも、この性格がわかる。また、APICSの最大の特徴は、グローバルな普及だ。APICSは、一部のSCMの専門家にはよく知られてはいるが、日本では一般的に馴染みがない。しかし諸外国では、サプライチェーン・マネジャーや購買スタッフの求人欄には、「APICS資格保有者優遇」と記載されているのが通例だ。APICS調査部の最近の調査では、APICS資格保有者は無資格者より11~13%平均年棒が高いという統計結果が出ている(図表1)。こうした状況を見た日本でのグローバル・サプランチェーン・プロフェッショナルたちは、APICSの資格受験のため、中国、韓国、ベトナムといったアジア近隣国に渡航して受験する状態であった。