内省型リーダーシップ 第5回 一番深い内省は自己定義の見直し
第3回では、内省には4つのレベル(1.行動、2.仕組み、3.メンタルモデル、4.自己定義)があると説明しました。今回は、その中で最も深いレベルである自己定義レベルでの内省を、事例を交えて解説していきます。このレベルで内省を行い、自己定義をバージョンアップすると、その上の3つのレベルも自然と変化していきます。自己定義レベルの内省は、他の3つに影響を与えるほど深いものだといえるのです。
自己定義レベルでの内省
筆者(永井)は野村総合研究所におけるIDELEAという事業の事業推進責任者です。IDELEAは経営者に対するエグゼクティブコーチング事業と対話を活用して組織が自らのビジョンを磨き上げ達成することをサポートする事業となっています。本連載第3回で紹介した事例では、社長の内省を深め、最終的には自然発生的に全社でビジョン策定を行うこととなりましたが、筆者が導く内省では多くの場合、最後に、意図的に4.自己定義のレベルにアプローチします(図表1)。仕組みやメンタルモデルレベルでの内省を継続的に繰り返すと、自己定義の見直しに行き着きます。「自分とは何者か?」という個人や組織の目的や存在意義に辿り着くのです。しかしながら自己定義を見直せば、自然とメンタルモデルや仕組みが変わり、日々の行動も変わってきます。
ケース:変革を生む自己定義のバージョンアップ
エグゼクティブコーチングのクライアントであるH社長(G社、製造業、東証一部上場)は私がお会いした年に社長に就任した。G社は業界一位の地位を長く保持していたが、近年は利益率の低さと、新しい分野への投資の遅れが課題であった。H社長は長年製造を中心としたモノづくりの分野で功績があり、人望も厚く、社長就任は社内外で順当な人事であると思われていた。コーチング開始に際して目的を確認すると、「自社の利益の向上のために大鉈を振るいたい。それについて対話したい」とのことであった。まず筆者は行動レベルや仕組みレベルでの内省を促すことを始めた(図表1)。現状の課題や、H社長が考える変革について質問を繰り返したが、なかなか内省が深まらなかった。課題だと思われることは既に何らかの対策を打っていたし、利益を増やすための「大鉈」といっても直近に何かできそうなことはそうそう見当たらなかったからだ。筆者は対話の方向性を変え、一気に自己定義レベルでの内省に取りかかった。図表2で示す手順に従って、まずH社長の成功体験についてお伺いした(step1)。