企業事例2 発信力としての英語力を磨き、 相手とのコミュニケーションレベルを上げる
英語力強化に取り組む企業は多いが、社員のモチベーションの維持は難しい。2009年から英語力強化に改めて取り組んだ双日では、当初社内でのさまざまな反応に直面しながらも、現在では英語学習を楽しむ雰囲気が醸成されつつあるという。その理由の1つは、“ビジネスに役立つ英語力をつける”という同社のコンセプトが明確なことだろう。相手を知り、自分を相手に知らせる―発信力を身につけ、実践で役立つ英語学習に力を入れている同社の取り組みを紹介する。
ビジネスの変化に伴い変わる英語力
「これまで商社は時代に合わせて、ビジネスのスタイルを大きく変えてきました。今また、大きな変化の時期を迎え、改めて英語力強化に取り組み始めました」こう話すのは、人事総務部人材育成課課長の池本健一氏だ。双日では中期経営計画Shine2011において、「グローバル人材の育成」を重要テーマの1つとして掲げている。中期経営計画の中で人材育成が明言されたのは同社として初めてのことであり、それだけ人材育成に力を入れている証でもある。商社であれば、英語ができて当然だと考える人も多いだろう。だが、かつての商社は日本を起点・終点とした貿易の仲介が主事業であったため、「英語が得意でない人はそれなりに、度胸と体当たりで何とかやっていたところもある」と池本氏はいう。しかし今や時代は変わり、商社ビジネスの主流は「三国間取引」と呼ばれる日本以外の国同士の取引の仲介、海外事業会社への出資や生産活動、さらにはそこで生産される商品の第三国への販売など、日本を基軸にしないグローバルなスタイルへとシフトしている。当然ながら、ビジネスの複雑性は格段に増し、日本から派遣される駐在員の役割や、求められるコミュニケーションのレベルも大きく変わることとなった。
求められるのはより複雑で繊細なコミュニケーション
たとえば日本から派遣される駐在員は概ね4~5年でローテーションしていく。現地のビビッドな事業環境をキャッチし、ビジネスを継続的に維持・拡大していくためには、現地事情により精通したナショナルスタッフの積極活用が欠かせない。「ナショナルスタッフを活用するためには、日常的なコミュニケーションを通じて、会社としての期待を伝えるとともに、適切に業務をリードしていくための、マネジメント能力が求められます。一方で、職場でのセクハラ・パワハラといった事象がクローズアップされている状況もある。従来以上に部下との複雑で繊細なコミュニケーションを行う必要性が増大しているのです」(池本氏)たとえば、海外のある拠点で新たな人事制度を導入したとする。制度を導入するに当たり、管理者であるマネジャーは部下に対して、なぜ人事制度が変更されたのかを説明する必要がある。さらに期初の目標設定から期末のレビュー、評価のフィードバックなど、ナショナルスタッフが納得できるよう、細やかなコミュニケーションを行い、疑問や不満に対処することが求められる。「かつてよりも繊細なコミュニケーションが求められるようになり、海外からも、『よりコミュニケーション力のある人に来てほしい』という要望が出てきています」と話すのは、人事総務部人材育成課上級主任の笹倉淳氏だ。このようなマネジメントは、従来のビジネス形態の中でもある程度必要とされてきた能力といえる。ただ、グローバル化がますます進展し、ビジネス環境が急速に変化していく中で、これまでよりも高いレベルでのコミュニケーションが必要とされているのは間違いない。これが、同社が英語力強化をめざす理由である(図表1)。
商社だからこそ、あえて英語に力を入れる
このようなビジネス環境の変化を受け、双日では2011年10月より海外赴任要件の変更に踏み切る。従来同社ではTOEIC®LRテスト650点をクリアすることを海外赴任者に課してきたが、これを730点にまで引き上げた。さらにTOEIC®SWテストという新しいテストにより、アウトプットを通じた実践的なコミュニケーション力を基準に追加する。この変更のために、説明会やテストの実施を2009年から継続的に行い、さまざまなサポート研修を実施してきた(図表2)。