企業事例1 時代も国境も越えた普遍的力を生む ワンカンパニー=ワンカルチャー
日本発のグローバル企業として世界中に拠点を構えるトレンドマイクロ。同社には、TLCという内なる自分を見つめ直すオリジナルの研修がある。自分を見つめ直すことこそが、時代や国境を越えて通用するコミュニケーション力に不可欠という同社。時代にも国の違いにも左右されないワンカンパニー=ワンカルチャーをめざす同社の教育を紹介する。
気遣いが裏目に…多国籍企業の課題
1988年、アメリカ・カリフォルニア州で創業したトレンドマイクロ。創業翌年に日本に本社を移し、現在は、日本発の多国籍企業として30以上の国と地域に拠点を構えるほどの大企業へと急成長をとげている。グローバルに事業を展開する同社は、経営陣の国籍も実に国際色豊かだ。創業者で台湾出身のスティーブ・チャン氏を筆頭に、共同創業者で社長兼CEO(最高経営責任者)を務めるエバ・チェン氏も台湾出身、そしてインド出身で現在は日本国籍を取得したCFO(最高財務責任者)のマヘンドラ・ネギ氏、日本人は取締役の大三川彰彦氏のみだ。経営陣の顔ぶれから、“ザ・グローバル企業”という風格が漂う同社。ゆえに、そこで働く社員たちも、当然国際色に富んでいるだろうことは想像に難くない。人事総務本部人事部部長代行の成田均氏は、同社の“グローバル状況”について次のように話す。「現在、当社は日本を中心として、世界各国にグローバルネットワークを構築しています。日本の東京オフィスで働く600名の従業員のうち、外国籍は15、6名。意外に少ないと思われるかもしれませんが、海外で働く社員が4000人以上おりますから、eメール、ビデオ会議など、日本国内で働く社員も英語を使う場面が多くあります」(成田均氏、以下同)同じトレンドマイクロの社員とはいえ、育ってきた国・地域が異なれば、ビジネス上でも文化の違いに直面することが多々ある。日本人同士でも価値観や感覚の違いがあるのだから、国境を越えればなおのことコミュニケーションで苦慮する場面は多いはずだ。「海外との感覚の違いとしてわかりやすい例が、ミーティング開始時間に対する感覚の違いです。日本人であれば、ミーティングの開始5分前に会議室に入室しているのは当たり前。ところがたとえばラテン系の人では、会議の開始時間に家を出るなんてことも(笑)。こうした行動は、怠けているからではなく、それがその国・地域でのマナーだから。相手を気遣っての行動なのです」多様な国籍の人たちと働くことによって生じる感覚の違い、文化の違いは、日常のそこかしこに出てくる。しかもその多くが、良かれと思ってやっていたことが相手を不快にし、ビジネスを停滞させてしまう要因になっているのだ。そうしたコミュニケーションの難しさは、グローバル展開する企業に常につきまとう悩みでありクリアしなければいけない課題といえる。
思い込みに正面から向き合う
文化の違いによるすれ違いや誤解を、トレンドマイクロではいかにして乗り切っているのか――。その一翼を担うのが、同社で全世界の社員を対象に実施しているTLC(Trend Learning Circle)という研修だ。同研修は、社員が自ら考え行動する「学習する組織」を実現するために、ワークショップを通じてその考え方を身に付けるもの。同プログラムは、TLC1.0、TLC2.0の2つのセッションで構築されている。TLC1.0は、学習する組織に必要なことや、これを実践するツールを学ぶ基礎コース。TLC2.0は、学習する組織をさらに進めるために自身の潜在力を最大化することを支援するワークショップとなっている。